2015年12月30日水曜日

(十二)オス文鳥それぞれ

 12月4日 チーがきょうもあやさんにまとわりつく。腕に止まらせたままソファーに座って、歌をうたって聞かせる。ついでに
「このうちで1番えらいのは、チーちゃんとパピちゃん」と、みんなに聞こえるようにいってやる。すると腕にじっとしていたチーが、羽づくろいを始め、くつろいだ様子になった。かなりこちらのいっていることがわかるようだ。少し自信を持てたかもしれない。言葉がわかるといえば、数日前、面白いことがあった。またココだけが鳥かごに戻らないで、マイたちの鳥かごの上にいた。あやさんは「ハハーン」と思って、パピの鳥かごの前に行き、
「パピちゃん、もっとココを大事にしなくちゃね」と、いった。すると、パピには意味がわかったようで、少しすると鳥かごから出て、ココのそばに行っていた。ココのごきげんをとりに行ったのだと、すぐに思った。そしてまもなく一緒に鳥かごに戻っていた。
 文鳥の夫は、けっこう妻に気を遣っている。マイの水浴びはいつもルミと一緒に手のひらのプールでしていて、マイは自分が先に蛇口にくると、ルミを呼んでいる。そこへほかの文鳥が飛んでくると、追い払って、茶口での水浴びはマイとルミの特権のように威張っている。よくスーがきて追い払われているけれど、最近ではルミの妹のトビもやってくる。そして近づくと、やはりマイにもルミにも追い払われる。ところが先日、ルミは卵を温めていてマイ独り手のひらのプールで浴びているところにトビがやってきたら、意外なことが起きた。いつもと違って追い払わない。トビは白文鳥だから、マイは気に入っているようなのだ。それをいつもは妻のルミの手前、すごい勢いで追い払っているわけで、この妻への気遣いには思わず苦笑してしまう。パピといいマイといい、よそに気があるのはオスの特徴だろうけど、パートナーへの配慮はなかなかのもので、その細やかさには関心する。
 一方、妻がいなくなってしまったチーは、相変わらず寂しそうで、ほかのメスには関心がないようだ。夫の肩や腕に乗って洗面所について行き、そのたびに大きな声でさえずるという。ピポが洗面所にいて、そこから玄関に行ってしまったことを知っているのだろうか。夫はそのチーのピポを呼ぶようなさえずりを聞くたびに切なくなるといっている。
 また長い間独身だったメグは若いランを妻に迎えて仲睦まじく交代で卵を温めている。そのメグの子どもでありながらランの父親のクリは、まだ妻のチビを亡くしたばかりで、こちらもチーのようにあやさんや夫にくっついている。
 ランと一緒に生まれた若いスーとミーは部屋の中を飛び回っているけど、2羽ともよくランとメグのいる鳥かごの上に止まって、ランの様子を見ている。ミーは相変わらずランに嫌われていて、ときどきメグが鳥かごの中から追い払っている。フリーのメスはトビとユウだけど、この姉妹を別々にするのは難しそうだ。これからどんなカップルができるのか、来年にはわかるだろう。

 2015年もそろそろ終わろうとしている。今年はいろんな節目の年だったように思う。あやさんちでは4羽のメス文鳥との予想外の別れがあり、新しく1羽のメスと2羽のオスが加わった。寂しさと悲しさに包まれた世代交代を思わせる年でもあった。
 まもなく始まる新しい年が、みなさまにとって、そして、文鳥たちにとっても穏やかな良い年になりますように。

2015年12月26日土曜日

(十一)チビの具合③

 12月1日の朝、チビがツボ巣から出てこない。のぞくと顔を動かしたものの、しばらくたっても出てこない。つぎの卵を産んでいるのかもしれないと思ったけれど、昨夜、寝る前にツボ巣から落ちていたと夫から訊いていたので気になった。きのうの昼間はいつもどおり元気に飛んでいたから、また卵を抱えて具合が悪いのかもしれない。ツボ須の中で動く様子がないので、あわててチビを手に取った。弱々しく力ない感じで、かなり具合が悪いようだ。水とえさをそばに用意して手の中で温めると、少し動くようになり、えさを3口ほど食べた。3つぶだったかもしれない。水は、嘴をぬらしてやっても、ほとんど飲まない。クリも心配そうにときどきそばにくる。そして、チビはいくぶん回復したように思えたが、少し首をふり、そのままあやさんの手の中で眠ってしまった。
「死んじゃわないかしら……」と心配しながら1時間ほどチビを抱いていた。予感は的中して、9時には全く動かなくなった。クリがきて、チビのしっぽを突っついたりしたものの、チビはもう反応しなかった。まだ全身があたたかいのに嘴が固く閉じている。明らかに死んだとわかった。1年9か月の短い一生だった。
 ピポがいなくなって半月になるけど、まだ見つからない。チビが死んでしまったので、いまあやさんちの文鳥は12羽になっている。ピポの夫のチーに加えチビの夫のクリまでが、さびしい日々をおくることになりそうだ。それにスーとミーもまだ独身だから、独り身のオスが4羽にもなってしまった。

翌日、チビの亡骸をフーたちと同じ場所に埋めた。クリはツボ巣の中で「クークー」いっていたらしいけど、そっと泣いていたのだろう。
 チビとクリは生まれたときからずっと一緒に暮らしてきた。あやさんちではなぜか桜文鳥はモテないから、もしチビがクリと離れたら、独身のままだっただろうと容易に想像できる。これまでメスで結婚できなかったのはナナ、ココ、ユウ、それにトビだけど、白文鳥のトビはモテルから子どもを持った(それがクリとチビ)。あとの3羽の桜文鳥はそれもなく独身のままだった。そう考えるとチビは、少し我儘でも格好のいいクリーム文鳥のクリと結婚できたから幸せだったかもしれない。そして3羽の立派なヒナを残したのは、すごいことだ。そのために命を縮めてしまったような気もするけど、それは仕方のないことだと思って、あやさんは心を鎮める。
 チビはあのひ弱な体でよく3羽のヒナを育て上げたと本当に関心する。そのため、かなり飛べなくなってしまった。みんなのようにカーテンレールの上にやっと上がれるようになっていたのに、子育て後に再びそこに上がることはなかった。チビは足も小さくて力がない。短い一生で可哀想だったけれど、頭のいいチビは精一杯に生きて、相次いだフーと七の死で悲しみの中にいたみんなに、新しい生命という希望をもたらしてくれた。
 この日、チーに珍しいことがあった。ピポが消えてしまってから、自分の守り神を失ったチーは、カーテンの場所取りもできずに、あやさんや夫にくっついている。チーはひ孫までいる長老の身なのに、ピポがいないとなさけない有様だけど、 最近はマイたちの水浴びのときにも、チーがあやさんの腕にくる。そしてマイに追い払われている。ところが、この日はチーがひとりで先に飛んできてあやさんの腕に下りた。チーはこれまでもこうして蛇口の水を飲んだことがあるものの、手のひらのプールに入ったことはない。水浴びは大好きなのに、水のたまった手に乗るのは恐いのだろう。それが、
「チーちゃん、ぉ水の中でバサバサッてしてごらん」と、いったら、初めて手のひらのプールに入って水浴びをした。ピポがいなくなって、チーの中で何か変かが起きているようだ。
 ピポはまだみつからない。どこかに保護されていてほしい。

2015年12月21日月曜日

(十)チビとピポ

 11月22日の朝、またチビが鳥かごの下に落ちたまま、じっとしていた。手の中で温めるものの、食欲もなく水も飲まない。また卵かフンが詰まっているのかもしれない。温めてツボ巣に戻すと、すぐにまた下に落ちてじっとしている。そんなことを3回くり返したので、夫が起きてきてから療養用の鳥かごに移した。そのほうがクリと離れて静かに養生できそうだ。
 チビは1晩、療養用の鳥かごで過ごし、翌朝には元気になって、クリのところに戻りたがった。元の鳥かごに入れてやると、高い位置のえさ入れに上がってえさを食べたから、あまり心配はないようだ。
 そして、次の日の朝、鳥かごの下にチビの卵が落ちていた。拾ってツボ巣に入れてやったら、クリと喜んで温めだした。けれども翌日にはその卵は再び下に落ちていたからダメだったのかもしれない。それでも、これで、今回は卵詰まりの心配が薄れたと思い、あやさんはホッとする。

 一方、ピポはまだ見つからない。範囲を広げて貼紙をするけれど、なんの音沙汰もない。ピポはもう6歳4か月を過ぎているから、人間でいえば60代の後半で70近い年齢だろう。ひ孫までいる大ばあちゃんで、これから余生を送ろうという時期に差し掛かっている。ピーが2年足らずで死んでしまったあと、同じ白文鳥のピポがこの家にやってきて、どれほどフーやあやさんたちを慰めてくれたことか。そのフーが2月に亡くなってしまい、ピポがこの家で1番の古参になった。フーのように怪我をすることもなくずっと元気に暮らしてきて、まだまだこれから何年も一緒に過ごせると思っていた。そのピポがいなくなってしまったなんて、なかなか受け入れられない。
 ピポは遊びを考え出すほどの頭のよさといまだにソファーから巻き上げカーテンに垂直に飛び上って行く運動神経を持ち合わせ、シナモン文鳥のチーとの間にルミ、ユウ、トビ、メグの4羽の子どもをもうけた。それもヒナをかえすのは1年に1度のことで、トビとユウは一緒に生まれたが、ルミとメグは1羽ずつだった。そのトビとメグの子が生まれ、それがクリとチビで、そこからこの春にスー、ミー、ランが生まれ育った。つまりチビはピポの孫にあたる。
 けれども、丈夫なピポに比べチビはヒナのときから小さかった。口のわきのパッキンがおかしく大口をあけて食べられなかった。育たないかもしれないと思いながらも、親鳥がここまで育てたのだからと無理やり口の中にえさを入れて食べさせた。そして小さいながらも一人前になって、1度に4羽ものヒナをかえした。そのうち1羽はかえってまもなく死んでしまったけれど、とにかくチビはあやさんがハラハラするほど頼りない体で、3羽ものヒナを育て上げた。
 どう見てもピポのほうが要領よく生きてこられた。だから、その調子でだれかに拾われて可愛がられていることを願うばかりだ。ピポなら、家を出てしまってからも何とかできたかもしれないと淡い期待を持つしかないだろう。
 ピポは鬼ごっこが好きで、よくマイやメグに追いかけられていた。あの元気はとてもおばあさんとは思えない。そうは考えてみるものの、あやさんはカラスの鳴き声を聞くたびに身が凍る。みんながピポの帰りを待っている。

2015年12月17日木曜日

(九)ピポ、どこに?

 チビのことでホッとしたのもつかの間、あやさんちはまた大変なことになった。11月14日は朝から落ち着かない日だった。午後からハウスメーカーが点検にくるということもあったけど、テレビをつけるとパリの同時テロという衝撃的なニュースが流れていた。たくさんの死傷者が出たと伝えていて、重苦しい気分になり、文鳥たちの声にいやされる。
 予定通り家屋の点検は午後1時から始まり、男性4人が家の中に出入りしたため、文鳥たちの放鳥は3時過ぎになった。夫はそのあと4時を過ぎてから、あわただしく新調したメガネを取りに家を出て行った。
 そして、あやさんは自分の部屋のテレビでフィギュアスケートを見ていて、家を出た夫がまもなく傘を取りに戻ったのは知らなかった。多分このところの疲れで、テレビを見ながら居眠りをしていたのだろう。文鳥たちの騒ぐ声で気がついて、居間の電気をつけなければと思ったのは4地半頃だった。居間は真っ暗で、あわてて明るくしたけれど、いつものメンバーがまだ鳥かごに戻らずに騒いでいた。
 それから、6時頃に夫が帰ってきて、いつまでも遊んでいるマイやトビたちを鳥かごに戻し、ピポがいないという。あわてて名前を呼んで探しまわる。
 当然この夜は大変だった、どこかにピポがはさまったり落ちたりしていないかと家中を探す。運動神経のいいピポに限って、動けなくなっているとは、あまり考えられないけれど、1か月前には珍しく、カーテンを縫っていた糸がほづれ、それに足を引っかけて動けなくなっていた。それ以外は本当に手のかからない子で、足の爪も自分で短くしていて、1度も切ってやったことがない。とにかく家中をくまなく探しまわる。それでも発見できなかった。
 よく朝、もう死んでしまったかもしれないと思いながら、悲しい気持ちで、もういちど、洗濯機の下や机の下など徹底的に調べるけれど、やはりピポの姿はない。不思議だ。
 ピポが家の中にいないということは、外に出たとしか考えようがない。窓は閉まっているから、出たとしたら玄関だ。放鳥後に玄関が開いたのは、夫が出かけたときと帰ってきたとき、それに傘を取りに戻ってきたときの3回だけだけど、ピポが外に出たとすれば、戻ったときしか考えられない。ふだんは玄関になど絶対に行かないピポだけど、メグに追いかけられていた可能性もあるから、玄関の明りがついたので夫が帰ってきたかと思い飛んで行ってしまったのかもしれない。
 ところが夫はそのまま傘をとってドアを閉め、カサを広げて行ってしまった。そんなことが考えられた。
 15日の夕方には夫が警察に電話して遺失物で届いていないか問い合わせる。また、迷子チラシを作って家の外や団地の掲示板などに貼った。
 さらに夫は「迷子のペット」のネット掲示板にも書き込む。家の外にはえさを置いてピポの帰りを待ちわびるものの手がかりは無い。
 家の中では鳥かごに独り残されたチーが落ち着かない様子で、放鳥すると、ピポを探してくれとばかりにふたりの肩にとまったりして、最近になく付きまとう。以前は、よく巻き上げカーテンに潜っていたチーだけど、自力でその居心地のいい場所を取ることはできないらしい。こうなってみると、ピポがいかに頼りがいのある妻だったかがよくわかる。なんとかピポに戻って欲しいけれど、無事なのかもわからない。
 ピポの子どものトビやメグが、いつもは行かない玄関に行く。ピポがそこから外に出たことを知っているのだろうか。心配で重苦しい1週間が過ぎた。


2015年12月10日木曜日

(八)チビの具合②

 その後もチビの卵を見ていない。やはり、あのとき何とか産み出して、チビとクリで始末してしまったのだろうか。不可解だけど、とにかくチビが元どおりになったので、あやさんは安心した。
 それから10日御の11月13日、朝からまたチビの様子がおかしかった。この前、具合が悪くなったときもそうだったと思うけれど、今朝もけっこう冷え込んだ。ところが、あやさんたちはチビがすっかり元気になったので、もう暖房は必要ないと考えて数日前から鳥かごから外していた。さらに悪いことに、昨日は朝からふたり揃っての遠出で、帰宅したのは6時半頃だった。明かりをつけるとみんな喜んで、元気に鳴いていたけれど、テレビからはまもなく気象情報のイントロの音楽が流れ、いっせいにさえずったあと鳥かごには布がかけられた。みんな1日中、鳥かごから出られなかったわけで、少し調子が狂ったかもしれない。チビにそのとき変った様子は見られなかったものの、実際にチビの具合がどうだったかはわからない。。
 いずれにしてもチビが今朝はツボ巣から出てこない。あやさんが急いでチビを中から取り出すと、ふるえているようなザワザワした感じが伝わってくる。寒くて震えているのか苦しくておかしいのかわからないが、とにかく暖めなければと、手の中で温めながら必死で背中に温かい息を吹きかける。それを30分ほどすると。チビの体が落ち着いてきた。
 そこで、手の中にえさを入れて嘴に近づける。けれどもえさは食べず。水をなめただけだった。あやさんは、そのまま暖房を付けたツボ巣に戻して様子をみることにした。
 それが7時半頃で、チビはそのまま寝ていたようだ。それでも、あやさんはえさを食べさせなければと思い、9時頃にまたチビをツボ巣から出して手の中で温める。まだえさをほとんど食べないから心配だけど、さっきよりは落ち着いていて、かなり良くなってきたようなので少し安心する。また暖かいツボ巣に戻して寝かせる。
 そして、正午頃、ツボ巣の下に落ちているチビを見つけた。えさか水が欲しくてツボ巣から出たものの、具合が悪いのでうまくえさ入れに飛び移れずに落ち、そのまま上がれないでいたのだろう。また手に乗せて温め、指に付けた水をなめさせると、ずいぶんなめた。やはり、のどが渇いていたらしい。そのあと少し食べて、小さなフンを出したら、声を出してクリを呼ぶ元気が出てきた。
 とにかく、えさを食べるようになったから、あとは暖かくしていれば大丈夫だろう。

 そして、4時頃、夫がいった。
「チビの鳥かごに大きなフンが落ちてる。チビはフン詰まりだったんだ」
 あやさんはホッとしたけれど、フン詰まりも卵詰まり同様に鳥にとっては命取りになるような危険なことらしい。チビの足は小さくて頼りない感じだから、ふんばる力が弱いはず。春にはよく卵を産んで3羽ものヒナを育てたと関心するばかりで、そのためひ弱な体がさらに弱くなってしまったように思う。クリと離して1羽で静かに暮らさせたい気もするけれど、それはチビの望まないことだろう。

2015年12月4日金曜日

(七)チビの具合①

 11月3日、朝、いつものように鳥かごのおおいの布を外すと、チビが下に落ちていた。チビは足も小さいので、そういうことはよくあるのだけれど、いつまでたっても下にいる。おかしいと思っていると、クリもそばに下りて行き、何か様子が変。
「チビが卵を抱えて飛び上れないみたい」と、夫にいうと、
「卵詰まりかな」と心配そうな返事。
 以前にもそんなことがあって、そのときはスカイカフェのえさ入れに入って動けないでいた。お腹が痛かったようで、手に乗せて暖めてやると、楽になったのかそのあとえさを食べ、まもなく棒状の卵を産んだ。それでも、チビはその後ちゃんとした卵を6つも産んで4羽のヒナをかえしている。そのうち1羽は、生まれてすぐに死んでしまったものの、スー、ミー、ランの3羽は立派に育っている。それは、半年前のことで、もう参道はできているはず。すると、急に冷えてきたから、そのせいかもしれないと思い、あやさんはチビを暖めなければと、手に乗せた。
 手の中で温めていると、チビは心地よいのかじっとしている。そのうちにバサバサとはばたいて、大きなまっ白いフンをした。でも卵はまだ出てこない。
 おなかが空いているだろうと思い、手の中でえさを食べさせると、いつものようにせわしく食べた。でも、相変わらず卵は出てこない。
 夫が卵を出そうとして、チビのお腹をさすっていたけど、お腹の中の卵が潰れてしまったかもしれないと、大変なことをいう。まだお尻から出かかっていないのに強く圧したらしい。
「大丈夫かしら?」
「鳥かごに暖房をつけて、ツボ巣に入れよう」と、いうことになり、チビは鳥かごに戻された。クリも心配そうで落ち着かない様子。夫がいなくなってしまったので、あやさんは家事をしながら、ときどきツボ巣をのぞくことになった。
 そんな中、ツボ巣でバサバサ暴れる音がする。のぞいて見ると、クリもツボ巣の中にいるようなので、チビが卵を産み落とそうとして、暴れているのだろうと思った。
「どうか、無事に卵が出ますように」と、あやさんは祈るばかりだけれど、そのうち、バサバサは止んで静かになった。クリが出てきてえさを食べている。チビはツボ巣のふちにいて、中をのぞいていた。
「卵がでたんだわ。よかった」と思ったものの、確かめるまでは安心できない。
 それから2時間くらいして、あやさんがチビの様子を見に行くと、クリがまたツボ巣のふちに止まって中をのぞいていた。そして、再びツボ巣の中で、バサバサッという音がした。それから静かになって、クリがチビを抱いている。そのまま静かなときがしばらく続いて、クリがツボ巣から尾羽を出して心配そうに中を見ていた。あやさんは祈りながら待つ。
 少しすると、クリとチビが並んでツボ巣から顔を出していた。
「チビが顔を動かしたわ」と、あやさんはホッとする。早く、卵がどうなっているのか知りたいけど、すっかり2羽でツボ巣の入口をふさいでいる。
 夫がきたので、クリたちのツボ巣を見てもらった。ところが、
「何もないようだぞ」という。では、さっきのあのバサバサしたさわぎは何だったのだろう。それにチビもいつもの様子になっている。
 鳥かごの掃除のとき、ツボ巣の中を確かめた夫は、
「やっぱり、何もない」といった。
 チビはそれから寝るまでいつもと変わらない様子で、バサバサすることもなかった。いったい、お腹をいたがっていた卵はどうなったのだろう。あやさんには、チビがあのツボ巣で暴れていたときに、産み落としたと思えるのだけれど、ないということは、チビかクリが潰れて出てきた卵を食べてしまったのだろうか。まるでキツネにつままれたような気分。

2015年11月26日木曜日

(六)新しい2つのペア

 9月になり、パピとココが一緒に暮らすようになった。こうなってみれば互いに寂しくなった身だから、いまは幸せそうだ。親子だけど、オスとメスだから問題ないはず。それでも、このようにパピとココが一緒の鳥かごに入るようになるには、ちょっとした男女のやり取りがあった。
 まず、どちらも自分の暮らしてきた鳥かごに相手を誘い込みたいようで、うまく同じ鳥かごに戻れなかったりしていた。そのうちにココがパピの鳥かごに入るようになったのだけど、そんな中、ココがなぜかまた自分の鳥かごに戻ってしまった。
 あやさんが不思議に思っていると夫がいった。
「パピがトビに気のあるそぶりを見せたから、ココがすねているんだ」
 それでもパピのところにトビがくることはなく。ココは夫の手に乗ってパピの鳥かごに入った。それからは、パピも気をつけているのか、親子で仲良くえさを食べているが、やはり文鳥さんはプライドが高いようだ。
 メグとランもすっかり落ち着いた感じで、このままカップルになるだろう。メグは若い伴侶を得て、これまでになくおとなしくなった。白文鳥とクリーム文鳥の組み合わせは初めてで、ランはメグといるときは、おしとやかに振る舞っている。ミーとの唸り合いが嘘のようだけど、ひとたび鳥かごから出てミーを見つけると、以前のように追い払う。“目の敵”とはこのような状態をいうのだろう。
 ランはスーとは遊んでいて、ソファーに置いた白い容器で一緒に水浴びをする。そこにミーがくると必ず追い払うので、ミーはスーたちが浴び終わった後、独りで浴びている。水浴びといえばフーとパピの蛇口での水浴びを思い出す毛ど、フーのいなくなったいまでは、パピが蛇口に飛んでくることはない。
 4年前(2011年9月)に撮ったパピとフーが蛇口で水浴びする動画が出てきたのでここに掲載。

 メグはスーにはそれほどではないのに、ミーがくるとすごい勢いで追い払っている。ランの気持ちを知っているからだろうか。
 スーは一番ひとなつこくて、あやさんや夫の手に積極的に乗ってくる。それにくらべてミーはどちらかといえば、スーやランの真似をしてあやさんのところにやってくる。

   9月23日、ランが初めて卵を産んだ。次の日も、その次の日も産んで、結局5つになった卵をメグと交代で温めている。
 それから1か月、まだランとメグは交代で真面目に卵を温めているけれど、この卵がかえることはない。ランはおませで生後半年もたたないのに5つも産んだので、夫が早すぎるといって、迷わず偽欄にかえていた。パピトココは一緒になって落ち着いたようだ。
 4日後の28日、メグとランは相変わらずかえるはずもない卵を抱いて、いつになったら止めるのだろうと思っていると、
「もう、新しいのを2つ産んだよ」とこともなげに夫がいう。偽欄5個と実卵2個を一緒に温めているらしい。あやさんは、
「じゃあ、古い卵を取っちゃわないと」と思ったけど、夫は、
「そのうちに、新しいのを外さないと」というから、やはりこれ以上、ヒナが増えないように考えているようだ。せっかくだから、かえしてやりたいと思うものの、本当に、これ以上は難しい。もう14羽でいっぱいなのだ。
 ピーとフーの卵を何とかしてかえしたいと工夫したことを思い出すけど、最近は全く反対だ。うっかりしていると、いつの間にかヒナが生まれてしまっている。あんなにかえしたかった卵なのに、人間は勝手なものだとつくづく思う。とはいえ、いまいる文鳥たちにとっても、これ以上の増員は迷惑だろうから仕方がない。

2015年11月20日金曜日

(五)鳥かごが足りない

 最近、ランとミーが犬猿の仲で、寄ると触ると唸り合っている。これまであやさんちでは、こんなに長く1つの鳥かごに3羽でいたことはないけれど、兄弟がこうも仲が悪いのは初めて見る。
 ランはスーとは仲がよく、鳥かごから出ても一緒にいる。一方、同じオスでもミーは近づいただけで追い払われている。部屋に置いた容器の水浴びも、ランとスーで入って仲良くしていて、ミーはそばに寄ると、ランに追い払われる。ミーは、その後で、夫にいわれてひとりで浴びているけど、いまからこんなに女の子に嫌われていたら大変だ。
 ミーだけ別の鳥かごに移したい気もするけど、もう鳥かごを置く場所がない。独り住まいのココのところへ行くか、だれかパピかメグとペアになって、鳥かごを空けてほしい。
 スーは兄弟の中では体も大きく頭もいいので、ポス的な存在だけど、とくにミーと争ったりはしない。それでも小さかったミーが大きくなってきたので、ランとミーの喧嘩は互角に渡り合っていて、もう、スーも止めきれないから、近いうちにランとミーを離さなければならないだろう。
 3か月をすぎてから、ますますミーとランの喧嘩が激しくなった。ランがミーを寄せ付けない。近づくと、頭の上をコツンとやる。このままでは意地の悪い女の子になってしまいそうだ。そこで2羽を離そうと思い、ミーをココの鳥かごに入れてみたり、ランをメグの鳥かごに入れてみたりする。けれども、ココはメグに気があるようで、ミーが入ってきては迷惑そうだし、メグはトビに気があるようなので、なかなかうまくいかない。パピとココが一緒になれば、大きい鳥かごが1つ空くから、いろいろ工夫できそうなのだけど、パピが娘のココを追い出してしまう。妻のフーがいたときにはココにも言い寄っていたのにと思うけど、どうもこの家では白文鳥がモテルようで、パピもトビが気に入っているらしい。
 8月7日、おとといから夫は、夜だけランをメグの鳥かごに入れている。ランは若いおじいさんのところに入ったわけだけど、彼女のほうは気に入っているようで、落ち着いている。メグもおとなしくしていて満更でもなさそうだ。これでオスのスーとミーだけがメグの正面の鳥かごに残ったわけだけど、いまのところ問題ないようだ。
 パピもフーが死んでからは独り住まいで、そこにときどきトビとユウが入っている。2晩ほど3羽一緒にパピの鳥かごで過ごしたものの、やはり朝になって覆いを外すと、パピがユウを追いかけ回す。トビとは一緒にえさを食べていて、どうもユウが邪魔なようだ。ユウは鳥かご中を逃げ回っても自分だけパピの鳥かごから出るつもりはないらしい。ユウはトビと別れたくないようだけど、トビの気持ちはどうなのだろう。
 結局、パピはまた独りになり、ココも同様で、寂しそう。それでもココのほうは、子どものときのようにパピの鳥かごに入ったりしているから、あとはパピ次第だろう。パピはトビがいいらしいけど、そちらはなかなかうまくいかないだろう。パピがフタマタをかけているうちに、ココの気が失せてしまうかもしれない。文鳥さんはプライドが高いのだ。

 ところで3羽のヒナは見た目もあきらかに違うけど、性格はもっと違うように思う。持って生まれた性格というのがあきらかにあって、それは何ともしがたいような気がする。スーとミーはどちらもオスだけど、ミーはまるで子どもで、相手の気持ちなど想像できないから、思うように行動する。最初に唸り合っているのを見たとき、ランがミーを嫌っていじめているように思った。ところが、だんだんわかってきたのは、ミーが乱暴にランに乗ったりするので、ランがいやがっているということで、まるでいたずらざかりの悪餓鬼のように、本人はくったくなく行動するのだけど、これではランに嫌われるはず。わが道を行くというところは、曾祖父に当たるチーによく似ている。
 スーはランとミーの間に入って、ケンカをやめさせたりしていて、もうすでにリーダーの素質をうかがわせる。人にも高い関心を示して、利口なオスの文鳥を思わせ、かつていたピーに似ている。ミーは独り勝手に行動気味だけど、とにかく歌が好き、パピのような鳴き声で暇さえあればさえずっている。
 

2015年11月13日金曜日

(四)オスかメスか

 6月になると、数日前からぐせり出していたヒナの声は、ミーのところから出ているとわかる。最初のうちあやさんは、活発で少し体の大きいスーかと思っていたのだけれど、ミーだった。シナモン文鳥のミーがオスだとわかったが、そうすると、白文鳥のスーは、メスなのだろうか。多分、クリーム文鳥のランはメスだと思うけど。いずれにしろ、来月になれば、はっきりするはず。オスばかりより、メスが多いほうが平和な感じがする。
 じつは昨夜、これまでにはなかったことが起きた。マイとルミのペアと、ユウとトビの姉妹が4羽とも鳥かごではない場所で1夜をすごしたのだ。今年は5月から夏日がつづいていて、文鳥たちの換羽も、そろそろ終わりに近づいている。換羽中はみんな調子が悪いのか、放鳥してもそのうちに自分から鳥かごに戻っている。ところが、そろそろ換羽も終わりのようで、みんな夏の羽に変ってすっきりして見える。動きも活発になってきたせいか、なかなか鳥かごに戻らないものも出てくる。トビとユウは、おとといも鳥かごに戻らず、最後は夫に捕まえられていた。ときどき鳥かごに入ってえさを食べたり水浴びをしたりするものの、なかなかの知能犯で、1羽ずつ入り、もう1羽を夫が手に乗せて鳥かごに入れようとすると、えさを食べ終わったほうが逃げ出してしまう。ナナとココもそうだったけど、どうもメス同士だと、あまり鳥かごに戻りたくないらしい。ふつうオスのほうが、人間の様子に敏感に反応するように思う。それでも、ユウとトビは、この日に叱られてこりたのか、次の晩はちゃんと鳥かごに戻った。
 それが昨夜は、なぜか4羽で戻らない。夫の話では、オスのマイは、いったん鳥かごに戻ったのに、ルミが入らないので、また出たらしい。そして、4羽で逃げ回り、とうとう7時になっても鳥かごに入らなかった。
 文鳥たちの就寝の時刻になったので、夫は彼らの鳥かごの半分にだけ布をかけ、入口をあけておいたが、朝まで額縁やカーテンの上にとまっていた。まあ気候もいいし、鳥はそうやって眠るものなのだろうからあまり問題はないと思うけど、お腹がすいても何も食べられないから、朝になってもずっとそのままというわけにはいかないはず。鳥かごの布をはずすと、あわてて中に入った。

  6月8日、きょうスーがぐぜっているところを見た。やはりスーはオスのようだ。これでヒナはオスが2羽、メスが1羽とわかった。これまでのオス5羽、メス6羽に合わせると雌雄どちらも7羽ずつ。さて、新しくどんなカップルが誕生するやら、いまから楽しみだ。

  7月下旬、ヒナたちも生後3か月を過ぎ、かなり一人前になってきた。シナモン文鳥のミーなどはルミと見間違えるほどよく似ている。歌が好きで、いつもパピのような鳴き方で鳴いている。これまであやさんちで生まれたオスの文鳥は、みんなチーに似た鳴き方になった。パピとチーという2種類の鳴き方があって、最初に生まれたマイは、父親のパピではなく、よそのお兄さんのチーの鳴き方を真似た。そして、チーの子どものメグもそのまた子どものクリも、マイの真似をしたのかチーと同じ鳴き方になった。だから、こんど初めてパピのように鳴く子が現われたのだ。そういえば、ミーの兄弟のスーのさえずりも、同じようにパピに似た個所がある。
「ホッホッ、ホチョチョン、ホチョチョン」という鳴き声だけど、パピが鳴いているのかと間違えるほどだ。こうしてみると、オスの親離れを感じるけれど、これは偶然なのだろうか。パピは自分の真似する声を聞いて、どう感じているのだろう。うれしいのだろうか。それとも、「ちょっとそこが違うんだな」なんて、気になっているのかな。


2015年11月6日金曜日

(三)スー、ミー、ラン

 3羽のヒナの誕生日は4月10日になった。母親のチビはかなりへとへとになっていて、夫が4月26日(日曜日)に、ヒナたちをフゴに移した。これまでヒナがいたツボ巣の中はフンだらけで、クリとチビのために新しいツボ巣に取り換える。ヒナにも名前をつけて、「スー」「ミー」「ラン」にする。以前どこかで聞いたような名前だから、。覚えやすいだろう。
 朝の7時にさしえをすると、親が食べさせていたときとは違って、つぎに鳴き出すのは11時頃だった。かなり食事の間隔が長くなったから、親の食べさせるえさの量では、もう足りなくなっていたようだ。
 朝7時、10時半  2時半  6時と1日4回、夫がさしえをする。その間は、フゴの中で3羽がくっついて眠っている。けっこう静かにしていて、さしえに追われることはない。さしえを始めると、にぎやかに鳴いて大口をパクパクするから、かわいい。
 一方、ヒナのえさやりから解放された親鳥はホッとしているようでもあり、気が抜けてしまったようにも見える。いずれにしても母親のチビはかなり体力を消耗してしまったようで、飛び方は前にもましておぼつかない。
 ランはクリーム文鳥で、ミーはシナモン、スーは白文鳥らしいと夫がいった。みんな白っぽい羽が出てきている
 29日には、ヒナのさしえを息子にビデオでとってもらう。夫の手に乗った3羽が大口をあけてえさを待つ。ギャアギャアとうるさいけど、だれかの口にえさが入るときには、3羽が同時に泣き止むから面白い。いまのところ、ランの体が1番大きい。
 5月の連休中もずっと、さしえが続いて、ヒナたちは日に日に大きくなっていく。もう、すっかり成鳥の形になった。
 5月8日、鳥かごの中で、フゴからツボ巣に入ったり、ツボ巣の上に上がったりしている。みんなバサバサと羽ばたいて元気だ。スーは鳥かごから出すと、本棚の中断まで飛んで行った。いちばん活発で、体型と動きは曾祖母に当たるピポそっくり。ランはそれに比べるとおしとやかで、ミーはまださしえをたくさん食べている。もうそれぞれの個性がはっきりしているから、持前の性格というのがあるとわかる。
 生後1か月になると、もうみんな飛んで本棚の高い場所に上がったりする。さしえの量は少なくなっているけど、まだ3羽とも食べている。鳥かご内のボレーなども食べだしたようだから、あと2日もすれば、さしえはいらなくなりそうだ。すっかり成鳥の形をしているものの、鳴き声はまだ幼い。

5月23日、フーが死んでしまってから3か月になる。この間に、ナナの腫瘍が出血して大きくなり、ナナまで死んでしまうなど、辛いことが続いた。
 ところが、まもなくチビとクリの子どもが生まれ、ふたりは悲しんでいるひまはなかった。 ナナは最後は痛そうだったから、見ていてもハラハラした。それでも、死ぬ前日には、あやさんの手の中から、みんなに向かって
「大丈夫だよ」というように鳴いていたから、バッファリンで痛みが少し和らいだのだろう。そして、よく朝、あやさんの手の中で眠るように死んでいった。とにかく腫瘍は驚くべき速さで大きくなったのだ。いま心にひっかかるのは、フーのことよりもナナの短かった命のことで、それを思うと、フーは満身創痍だったけれど、ちゃんと寿命をまっとうできた。寂しくなったが、そんなに悲しむことでもないはず。

 思いがけないヒナの誕生は、さびしくなったあやさんちを活気づけてくれた。いまのところ、大人の文鳥たちは、ヒナたちのパワーに圧倒されて、様子見の感じで、換羽の時期も手伝って、争ったりはしない。 
 パピはフーが死んでしまってからも、何度か手のひらで水浴びをしたけど、この1か月はしてないから、換羽で調子が悪いのかもしれない。ココはマイとルミが水浴びをするとき一緒に飛んでくるけれど、ルミに追い払われている。ひとりでは浴びられないから、結局、水飲みで浴びている。
 ヒナたちも丸い容器に水を入れておいたら、最初は水を飲むだけだったけど、まもなく中に入ってバシャバシャするようになった。3羽もいると、だれかが浴びればほかの者も真似をするから、たちまち3羽とも水浴びをするようになり学習が速い。
 ヒナは、白文鳥のスーが、いちばんお転婆だ。ミーはシナモン文鳥で、よく食べる。尖った嘴で首筋などに噛みつくから痛くて困る。ランはクリーム文鳥だけど、3羽の中では、おしとやかなほうだから、メスかもしれない。
 ヒナたちはみんな、鳥かごから出ると、よくふたりにくっついている。服のボタンや模様に興味を持って突っついたりしながら、まとわりついていて、かなりの甘えん坊だ。

 

2015年10月30日金曜日

(二)「さよなら」そして「ようこそ」

 ナナが死んでしまってから、ココはナナを探して鳴いている。その点、フーを亡くしたパピは、フーが寿命で死んだとわかっているのか、寂しそうではあるものの、そのようなことはない。
ココがあまり鳴くので、独りになってしまったパピの鳥かごをココの隣に並べてみる。親子で寂しさを慰め合えたらいいと思ったのだ。そのためマイとルミがいる鳥かごはパピがいた場所に移動となる。
ところが、放鳥後、彼らが鳥かごに戻ろうとしても、スムーズにいかない。どうしても自分の元いた場所の鳥かごに入ろうとしてしまうから、ややこしくなった。同じ大きさのかごだから、置かれている位置で自分のかごを認識しているらしい。それが入って見るとちょっと違うと思うようなのだ。なかなかうまく自分のかごに入らないので、夫は面倒がって、元どおりに並べ替えた。
3日たっても、4日たってもココは鳴きながら、みんなの鳥かごの上に行き、ナナを探し回る。水浴びに水道の蛇口に飛んできて、ナナを呼ぶ。あやさんが、
「ココちゃん、ぉ水を飲みなさい」というと、手の中にたまっている水を飲むものの、水の中に入って浴びることはない。元々ココはナナと一緒でないと、水浴びができないのだ。一日違いで生まれた双子のような姉妹は、たいていナナがリーダーだったから、ココはしばらく戸惑いそうだ。
 フーが去って、間もなくナナが出血し、それが癌だとわかってから、あやさんたちはフーの死を悲しんでいるどころではなかった。ナナがどんなことになるのか不安な日々だった。それでもナナは心配をよそに精一杯生きた。ナナはフーの子だけあって、賢い子だった。亡骸はフーのそばに埋葬した。

 そんな2羽がいなくなったという喪失感もあって、なんとなく落ち着かない1週間がすぎてのことだった。いつものようにクリとチビのいる鳥かごの青菜を換えるとき、あやさんは、あれ? っと思った。かすかな鳴き声を聞いたような気がしたのだ。チビが卵のあるツボ巣に入っているけど、その声がチビから出ているようではない。少し前に苦しそうにしていたとき、手の中で温めたら卵を産んだチビだけど、その卵は棒のようなものだった。まだ卵管が細すぎるのだろうと思っていたから、卵を産んでもヒナがかえるとは考えにくかった。
でも、ヒナが生まれたのかもしれない。夫に、
「ヒナの鳴き声みたいなのが聞こえるけど」と話すと、
「だれのとこから?」ときくので、
「クリたちのツボ巣」と応えると、
「それなら、あり得るな」との返事。
 あとで夫が確かめると、なんと3羽もかえったらしい。
 翌日 夫がツボ巣をのぞいていった。
「また生まれたらしいぞ」
 これでヒナが4羽も生まれたことになり、あやさんはチビとクリで4羽のヒナを食べさせていけるか心配だ。チビは、さしえのとき育つかどうかも危ぶまれたほどだったから、まだ体も小さくて飛び方もおぼつかないことがある。一番心配なのは、生まれつき嘴が少し曲がっているので、ちゃんとヒナに食べさせられるかということだ。
 それでも、夫の話では、何とか食べさせているようなので、ひとまずホッとする。青菜はたくさん菜差しに入れてもすぐになくなるので、一日に3回も取り換える。えさの減り方も普通ではないから、ヒナが4羽ともなると親たちも大変だ。チビはまだ子どものような背丈のない体におぼつかない足取りで、鳥かごの中を忙しく動き回ってえさを食べているが、ヒナは元気に鳴いて騒々しい。親が必死になって食べさせているうちに静かになるものの、2時間もたたないうちに、また騒ぎ出す。クリも手伝っているとはいえ、チビの小さな体での4羽のえさやりは、かなり大変そうに見える

4日御の朝、夫がクリたちのツボ巣をのぞいていった。
「ヒナが1羽、死んじゃったみたいだな。チビがくわえている」
 元気のよい鳴き声とは別に小さな声も聞こえていたから、きっとその子が死んでしまったのだろう。親たちは必死で食べさせているけど、たくさんいると弱い子は充分に食べられないのかもしれない。可哀想だけど、いまの段階ではどうにもできない。

 さらに4日後、ヒナ3羽は順調に育っていて、鳴き声も大分大きくなった。チビはおぼつかない足取りで、えさを食べるのに必死だけど、ちゃんとヒナたちに食べさせているようだ。嘴も少し曲がっていたチビだけど、何とか母親の役目をはたしているらしい。小さいくせに気が強くて頭もよさそうだから、大丈夫だろう。父親のクリもときどきツボ巣に入ってえさやりをしているけど、ヒナたちはすぐにおなかが空くのか、静かに寝ている時間が短くなっている。ツボ巣を3羽のヒナが陣取っていて、親の入れるスペースがあるのかわからない。
 チビは子育てでヘトヘトになっているようだけど、夫はあと1週間しないとヒナをフゴに移さないらしい。あやさんは、チビの体力と、ヒナがツボ巣から落ちたりしないだろうかと心配だ。

2015年10月23日金曜日

(一)ナナのかわいい目

 7年半の間、ともに暮らした白文鳥のフーが2月22日にこの世を去ってから、まだ間もない3日後に、大変なことが起きた。
 その日の夕方、あやさんが外出から帰ると、夫が、
ナナが大量の出血をした」という。すでに血は止まっていたものの、嘴がまっ白で貧血状態だとわかる。ナナは桜文鳥で、フーの第二子。一緒に生まれた妹のココとずっと同じ鳥かごで暮らしている。
 夫の話では、ナナの左足に大きな腫瘍ができていて、それを自分でつっついて出血したらしい。そんなものが足にできていたなんて知らなかった。そういえば、最近は、ココが卵を産んでもナナは産まなくなっていたし、このところ手のひらの水浴びも積極的ではなかった。。フーのことがあったので、ナナの変化に気づかなかったのだ。
 翌日、夫が小鳥の病院に電話して、その次の日に、ふたりで連れて行った。 

医師の診たてでは、その腫瘍はかなり大きなもので、悪性の可能性もあるようだった。断脚という方法もあるらしいが、あやさんは望まない。それに、医師がいうには、腫瘍が悪性の場合は、切り落としても、そこでおさまらない可能性が高く、また体力的に手術に耐えられないかもしれないようなので、足はそのままにすることになった。とにかくひどい貧血を治すことが先決だ。抗生剤や増血剤などの入った薬と、栄養剤をもらって帰宅。
 それから2週間、ちょうど薬がなくなるころ、嘴の色が少しピンクを帯びてきた。ところがナナがまた腫瘍をつっついたのか、再び出血。嘴が真っ白になったものの、出血はすぐに止まり、夫が次の薬をもらってきた。
 ナナは出血するたびに、暖房を入れた療養用の鳥かごに移動しているけど、翌日の夕方には元気な声で、ココを呼んでいた。。
 そしてナナは、水飲み容器に入れた薬をちゃんと飲んでいるが、腫瘍が肉腫と呼ばれる悪性のものだったりすると、かなりな痛みをともなうらしいから、これからどうなるか心配だ。

 3月末、ナナの嘴の色が淡いピンク色になってきた。極度の貧血状態は脱したようで、もう自分の鳥かごに戻っているけど、足のできものはますます大きくなっていて、飛び方もぎくしゃくしている。そのため、止まる場所にうまく移れなかったりする。
 夫が鳥かごの掃除のためナナとココを放鳥したときだ。ナナが体の片側が重いため変な飛び方で、パピの鳥かごの上に止まり損なって落ち、そのまま飛べなくなった。そして、ナナは、あやさんの手の中で変な格好で羽ばたくと、ぐったりした。
 ナナが人の手の中で眠るのは初めてで、よほど具合が悪いのか、首も定まらないようすで20分ほど静かにしていた。それから目をあけたので、ソファーに置いたら、まだ少し首がおかしい。それでも、ちょんと跳ねてフンをした。落ちたときに頭を打ったのかもしれない。ナナは暖かい手の中にいたら、痛みが和らいで、久しぶりに楽になったのだろう。とにかく飛べるかわからないので、また療養用の鳥かごに移して様子をみることにした。
 夫によると、その夜、ナナは夜中に痛がって暴れていたらしい。昼間はときどき手に抱いて温めると静かに眠るから、なんとかやりすごせたものの、また今夜が心配だ。腫瘍が大きくなって痛みが増してきたようだが、きょうは土曜日。月曜日まで病院に薬を頼めないから、それまで少しでも痛みを抑えてやらなければならない。家にあったバッファリンを水で溶いてうすめ、それを飲ませることにした。
 素人の思い切った決断で、不安だったけれど、このさい苦しむナナをそのままにしておけない。飲み水がわりに与えると、30分ほどして効果があらわれた。痛みが和らいだらしく、おとなしくなって眠り、少しすると目をさまして、えさを食べた。
 もう、完全に飛ぶどころではなくなっていて、片側が腫瘍で重いから、ちょっとした動きでこけてしまう。気がつくと背中を下にしてひっくり返っていたりして、直してやると、手につかまって、抱き上げて欲しそうにする。
 けれども、あやさんは、ナナを抱いたままでは何もできないから、仕事を済ませては抱いて、えさを食べさせたり薬の水を飲ませたりする。

 月曜日になったので、病院に電話して薬を頼んだ。ステロイドの入った薬だそうだけど、医師もこんなケースは初めてらしく、薬がどう効くのか不安そうだった。薬はつぎの日に届いて、さっそく水に溶かして飲ませたけれど、どうも痛み止めにはならないようなので、寄るからまたバッファリンに切り替える。 
 ナナはバッファリンの入った水を飲むと、手の中でフンをしてえさを食べ、眠った。そのまま鳥かごに戻したら、すぐにひっくり返ってしまい、バサバサ羽ばたくので、起こして丸めたタオルに寄りかからせる。夫にいうと、
「夜は逆さになったまま眠っているから、大丈夫だよ」と平然というので、あきれたけど、その方が楽なのかもしれない。ふたりは、ただナナだけの世話をしているわけにはいかないから、もう、かなり疲れてきている。
 それでも、苦しむナナを放ってはおけないから3、4時間するとバッファリンの入った水をなめさせた。ナナは痛みが治まって、えさを食べると、ココに向かって元気そうに鳴いた。
「ここにいるから、大丈夫だよ」とでもいっているように。

 そして、木曜日の朝、あやさんが早く起きると、夫はまだ寝ないでソファーでナナを抱いていた。
「ナナがバサバサやって痛がっていたから、いま薬を飲ませたところだ」といったので、急いで着替えてナナを受け取る。すると、ナナがえさを食べたそうに首を振る。昨日の朝は栄養剤をまぶしたむきえをかなり食べた。朝はお腹が空いているはずだ。手の中で食べさせていると、ナナが急に動かなくなった、薬が効いて眠ったと思ったけれど、何か静かすぎる。
「ナナちゃん、眠っているのかしら? 死んじゃったのかしら?」
 そういったけど、やはり眠っているのだろうと、あやさんは思っていた。夫が「どれ」といって、ナナを抱き上げるまでは。
「死んでいる。もう、死後硬直が始まっている」という夫からナナを受け取って触ってみると、左半身は固くなっていて、足から体の内部にかけて大きな固いものがあった。悪性の腫瘍なのだろう。ナナは最後まで痛みと闘って頑張った。死んだのは可哀想だけど、少しホッとした面もあった。このまま痛み止めが効かなくなったら、どうなるかと心配していた矢先でもあったからだ。
 せめて、あやさんの手の中で眠るように死んでいったことが慰めだ。あやさんはナナに少し負い目を感じている。ナナのお婿さんを見つけてやれなかったことだ。けれども、病院で医師がナナの子どもはいないかと心配していたように、もし遺伝的な要素もあるとしたら、子どもがいなくてよかったのかもしれない。それにしても、こんなに急に大きくなる腫瘍は珍しいようだ。かなり悪性のものだったのだろう。ナナは4月2日朝、4歳9か月の生涯を閉じた。
 ココがそれからしばらく、ナナを呼んで鳴いていた。

翌日、夫に、
「夕べ、ナナの夢を見たわ」というと、
「そういえば、俺も見た」といった。ピーが死んだときも、フーが死んだときも夢を見た覚えはないけれど、夢の中のナナはかわいい目でほほえんでいた。

2015年10月15日木曜日

ポエム④ 色あそび

このところ、絵の具を使った絵らしい絵を描いていない。でも、気がつけば、そこここにセザンヌやブラマンクの世界が広がっていました。

 

「色あそび」

 

白い画用紙に ポトリと青い水

にじんで 広がって

すみれの花が さきました

 

 

緑の芝生に ふわりと白い紙

風にゆれて 舞い上がり

かわいいちょうちょのフラダンス

 

 
    夜のお空に パアーッと流れ星

にじんで 消えて

お願いごとが かなうかな

 

  
目が悪いのが幸いして、細かいところが見えないので、まさに大胆な絵画の世界がそこにあります。本当は、そんな場面を切り取って残せたらいいのですが、それができずに歯痒いかぎり