2015年12月30日水曜日

(十二)オス文鳥それぞれ

 12月4日 チーがきょうもあやさんにまとわりつく。腕に止まらせたままソファーに座って、歌をうたって聞かせる。ついでに
「このうちで1番えらいのは、チーちゃんとパピちゃん」と、みんなに聞こえるようにいってやる。すると腕にじっとしていたチーが、羽づくろいを始め、くつろいだ様子になった。かなりこちらのいっていることがわかるようだ。少し自信を持てたかもしれない。言葉がわかるといえば、数日前、面白いことがあった。またココだけが鳥かごに戻らないで、マイたちの鳥かごの上にいた。あやさんは「ハハーン」と思って、パピの鳥かごの前に行き、
「パピちゃん、もっとココを大事にしなくちゃね」と、いった。すると、パピには意味がわかったようで、少しすると鳥かごから出て、ココのそばに行っていた。ココのごきげんをとりに行ったのだと、すぐに思った。そしてまもなく一緒に鳥かごに戻っていた。
 文鳥の夫は、けっこう妻に気を遣っている。マイの水浴びはいつもルミと一緒に手のひらのプールでしていて、マイは自分が先に蛇口にくると、ルミを呼んでいる。そこへほかの文鳥が飛んでくると、追い払って、茶口での水浴びはマイとルミの特権のように威張っている。よくスーがきて追い払われているけれど、最近ではルミの妹のトビもやってくる。そして近づくと、やはりマイにもルミにも追い払われる。ところが先日、ルミは卵を温めていてマイ独り手のひらのプールで浴びているところにトビがやってきたら、意外なことが起きた。いつもと違って追い払わない。トビは白文鳥だから、マイは気に入っているようなのだ。それをいつもは妻のルミの手前、すごい勢いで追い払っているわけで、この妻への気遣いには思わず苦笑してしまう。パピといいマイといい、よそに気があるのはオスの特徴だろうけど、パートナーへの配慮はなかなかのもので、その細やかさには関心する。
 一方、妻がいなくなってしまったチーは、相変わらず寂しそうで、ほかのメスには関心がないようだ。夫の肩や腕に乗って洗面所について行き、そのたびに大きな声でさえずるという。ピポが洗面所にいて、そこから玄関に行ってしまったことを知っているのだろうか。夫はそのチーのピポを呼ぶようなさえずりを聞くたびに切なくなるといっている。
 また長い間独身だったメグは若いランを妻に迎えて仲睦まじく交代で卵を温めている。そのメグの子どもでありながらランの父親のクリは、まだ妻のチビを亡くしたばかりで、こちらもチーのようにあやさんや夫にくっついている。
 ランと一緒に生まれた若いスーとミーは部屋の中を飛び回っているけど、2羽ともよくランとメグのいる鳥かごの上に止まって、ランの様子を見ている。ミーは相変わらずランに嫌われていて、ときどきメグが鳥かごの中から追い払っている。フリーのメスはトビとユウだけど、この姉妹を別々にするのは難しそうだ。これからどんなカップルができるのか、来年にはわかるだろう。

 2015年もそろそろ終わろうとしている。今年はいろんな節目の年だったように思う。あやさんちでは4羽のメス文鳥との予想外の別れがあり、新しく1羽のメスと2羽のオスが加わった。寂しさと悲しさに包まれた世代交代を思わせる年でもあった。
 まもなく始まる新しい年が、みなさまにとって、そして、文鳥たちにとっても穏やかな良い年になりますように。

2015年12月26日土曜日

(十一)チビの具合③

 12月1日の朝、チビがツボ巣から出てこない。のぞくと顔を動かしたものの、しばらくたっても出てこない。つぎの卵を産んでいるのかもしれないと思ったけれど、昨夜、寝る前にツボ巣から落ちていたと夫から訊いていたので気になった。きのうの昼間はいつもどおり元気に飛んでいたから、また卵を抱えて具合が悪いのかもしれない。ツボ須の中で動く様子がないので、あわててチビを手に取った。弱々しく力ない感じで、かなり具合が悪いようだ。水とえさをそばに用意して手の中で温めると、少し動くようになり、えさを3口ほど食べた。3つぶだったかもしれない。水は、嘴をぬらしてやっても、ほとんど飲まない。クリも心配そうにときどきそばにくる。そして、チビはいくぶん回復したように思えたが、少し首をふり、そのままあやさんの手の中で眠ってしまった。
「死んじゃわないかしら……」と心配しながら1時間ほどチビを抱いていた。予感は的中して、9時には全く動かなくなった。クリがきて、チビのしっぽを突っついたりしたものの、チビはもう反応しなかった。まだ全身があたたかいのに嘴が固く閉じている。明らかに死んだとわかった。1年9か月の短い一生だった。
 ピポがいなくなって半月になるけど、まだ見つからない。チビが死んでしまったので、いまあやさんちの文鳥は12羽になっている。ピポの夫のチーに加えチビの夫のクリまでが、さびしい日々をおくることになりそうだ。それにスーとミーもまだ独身だから、独り身のオスが4羽にもなってしまった。

翌日、チビの亡骸をフーたちと同じ場所に埋めた。クリはツボ巣の中で「クークー」いっていたらしいけど、そっと泣いていたのだろう。
 チビとクリは生まれたときからずっと一緒に暮らしてきた。あやさんちではなぜか桜文鳥はモテないから、もしチビがクリと離れたら、独身のままだっただろうと容易に想像できる。これまでメスで結婚できなかったのはナナ、ココ、ユウ、それにトビだけど、白文鳥のトビはモテルから子どもを持った(それがクリとチビ)。あとの3羽の桜文鳥はそれもなく独身のままだった。そう考えるとチビは、少し我儘でも格好のいいクリーム文鳥のクリと結婚できたから幸せだったかもしれない。そして3羽の立派なヒナを残したのは、すごいことだ。そのために命を縮めてしまったような気もするけど、それは仕方のないことだと思って、あやさんは心を鎮める。
 チビはあのひ弱な体でよく3羽のヒナを育て上げたと本当に関心する。そのため、かなり飛べなくなってしまった。みんなのようにカーテンレールの上にやっと上がれるようになっていたのに、子育て後に再びそこに上がることはなかった。チビは足も小さくて力がない。短い一生で可哀想だったけれど、頭のいいチビは精一杯に生きて、相次いだフーと七の死で悲しみの中にいたみんなに、新しい生命という希望をもたらしてくれた。
 この日、チーに珍しいことがあった。ピポが消えてしまってから、自分の守り神を失ったチーは、カーテンの場所取りもできずに、あやさんや夫にくっついている。チーはひ孫までいる長老の身なのに、ピポがいないとなさけない有様だけど、 最近はマイたちの水浴びのときにも、チーがあやさんの腕にくる。そしてマイに追い払われている。ところが、この日はチーがひとりで先に飛んできてあやさんの腕に下りた。チーはこれまでもこうして蛇口の水を飲んだことがあるものの、手のひらのプールに入ったことはない。水浴びは大好きなのに、水のたまった手に乗るのは恐いのだろう。それが、
「チーちゃん、ぉ水の中でバサバサッてしてごらん」と、いったら、初めて手のひらのプールに入って水浴びをした。ピポがいなくなって、チーの中で何か変かが起きているようだ。
 ピポはまだみつからない。どこかに保護されていてほしい。

2015年12月21日月曜日

(十)チビとピポ

 11月22日の朝、またチビが鳥かごの下に落ちたまま、じっとしていた。手の中で温めるものの、食欲もなく水も飲まない。また卵かフンが詰まっているのかもしれない。温めてツボ巣に戻すと、すぐにまた下に落ちてじっとしている。そんなことを3回くり返したので、夫が起きてきてから療養用の鳥かごに移した。そのほうがクリと離れて静かに養生できそうだ。
 チビは1晩、療養用の鳥かごで過ごし、翌朝には元気になって、クリのところに戻りたがった。元の鳥かごに入れてやると、高い位置のえさ入れに上がってえさを食べたから、あまり心配はないようだ。
 そして、次の日の朝、鳥かごの下にチビの卵が落ちていた。拾ってツボ巣に入れてやったら、クリと喜んで温めだした。けれども翌日にはその卵は再び下に落ちていたからダメだったのかもしれない。それでも、これで、今回は卵詰まりの心配が薄れたと思い、あやさんはホッとする。

 一方、ピポはまだ見つからない。範囲を広げて貼紙をするけれど、なんの音沙汰もない。ピポはもう6歳4か月を過ぎているから、人間でいえば60代の後半で70近い年齢だろう。ひ孫までいる大ばあちゃんで、これから余生を送ろうという時期に差し掛かっている。ピーが2年足らずで死んでしまったあと、同じ白文鳥のピポがこの家にやってきて、どれほどフーやあやさんたちを慰めてくれたことか。そのフーが2月に亡くなってしまい、ピポがこの家で1番の古参になった。フーのように怪我をすることもなくずっと元気に暮らしてきて、まだまだこれから何年も一緒に過ごせると思っていた。そのピポがいなくなってしまったなんて、なかなか受け入れられない。
 ピポは遊びを考え出すほどの頭のよさといまだにソファーから巻き上げカーテンに垂直に飛び上って行く運動神経を持ち合わせ、シナモン文鳥のチーとの間にルミ、ユウ、トビ、メグの4羽の子どもをもうけた。それもヒナをかえすのは1年に1度のことで、トビとユウは一緒に生まれたが、ルミとメグは1羽ずつだった。そのトビとメグの子が生まれ、それがクリとチビで、そこからこの春にスー、ミー、ランが生まれ育った。つまりチビはピポの孫にあたる。
 けれども、丈夫なピポに比べチビはヒナのときから小さかった。口のわきのパッキンがおかしく大口をあけて食べられなかった。育たないかもしれないと思いながらも、親鳥がここまで育てたのだからと無理やり口の中にえさを入れて食べさせた。そして小さいながらも一人前になって、1度に4羽ものヒナをかえした。そのうち1羽はかえってまもなく死んでしまったけれど、とにかくチビはあやさんがハラハラするほど頼りない体で、3羽ものヒナを育て上げた。
 どう見てもピポのほうが要領よく生きてこられた。だから、その調子でだれかに拾われて可愛がられていることを願うばかりだ。ピポなら、家を出てしまってからも何とかできたかもしれないと淡い期待を持つしかないだろう。
 ピポは鬼ごっこが好きで、よくマイやメグに追いかけられていた。あの元気はとてもおばあさんとは思えない。そうは考えてみるものの、あやさんはカラスの鳴き声を聞くたびに身が凍る。みんながピポの帰りを待っている。

2015年12月17日木曜日

(九)ピポ、どこに?

 チビのことでホッとしたのもつかの間、あやさんちはまた大変なことになった。11月14日は朝から落ち着かない日だった。午後からハウスメーカーが点検にくるということもあったけど、テレビをつけるとパリの同時テロという衝撃的なニュースが流れていた。たくさんの死傷者が出たと伝えていて、重苦しい気分になり、文鳥たちの声にいやされる。
 予定通り家屋の点検は午後1時から始まり、男性4人が家の中に出入りしたため、文鳥たちの放鳥は3時過ぎになった。夫はそのあと4時を過ぎてから、あわただしく新調したメガネを取りに家を出て行った。
 そして、あやさんは自分の部屋のテレビでフィギュアスケートを見ていて、家を出た夫がまもなく傘を取りに戻ったのは知らなかった。多分このところの疲れで、テレビを見ながら居眠りをしていたのだろう。文鳥たちの騒ぐ声で気がついて、居間の電気をつけなければと思ったのは4地半頃だった。居間は真っ暗で、あわてて明るくしたけれど、いつものメンバーがまだ鳥かごに戻らずに騒いでいた。
 それから、6時頃に夫が帰ってきて、いつまでも遊んでいるマイやトビたちを鳥かごに戻し、ピポがいないという。あわてて名前を呼んで探しまわる。
 当然この夜は大変だった、どこかにピポがはさまったり落ちたりしていないかと家中を探す。運動神経のいいピポに限って、動けなくなっているとは、あまり考えられないけれど、1か月前には珍しく、カーテンを縫っていた糸がほづれ、それに足を引っかけて動けなくなっていた。それ以外は本当に手のかからない子で、足の爪も自分で短くしていて、1度も切ってやったことがない。とにかく家中をくまなく探しまわる。それでも発見できなかった。
 よく朝、もう死んでしまったかもしれないと思いながら、悲しい気持ちで、もういちど、洗濯機の下や机の下など徹底的に調べるけれど、やはりピポの姿はない。不思議だ。
 ピポが家の中にいないということは、外に出たとしか考えようがない。窓は閉まっているから、出たとしたら玄関だ。放鳥後に玄関が開いたのは、夫が出かけたときと帰ってきたとき、それに傘を取りに戻ってきたときの3回だけだけど、ピポが外に出たとすれば、戻ったときしか考えられない。ふだんは玄関になど絶対に行かないピポだけど、メグに追いかけられていた可能性もあるから、玄関の明りがついたので夫が帰ってきたかと思い飛んで行ってしまったのかもしれない。
 ところが夫はそのまま傘をとってドアを閉め、カサを広げて行ってしまった。そんなことが考えられた。
 15日の夕方には夫が警察に電話して遺失物で届いていないか問い合わせる。また、迷子チラシを作って家の外や団地の掲示板などに貼った。
 さらに夫は「迷子のペット」のネット掲示板にも書き込む。家の外にはえさを置いてピポの帰りを待ちわびるものの手がかりは無い。
 家の中では鳥かごに独り残されたチーが落ち着かない様子で、放鳥すると、ピポを探してくれとばかりにふたりの肩にとまったりして、最近になく付きまとう。以前は、よく巻き上げカーテンに潜っていたチーだけど、自力でその居心地のいい場所を取ることはできないらしい。こうなってみると、ピポがいかに頼りがいのある妻だったかがよくわかる。なんとかピポに戻って欲しいけれど、無事なのかもわからない。
 ピポの子どものトビやメグが、いつもは行かない玄関に行く。ピポがそこから外に出たことを知っているのだろうか。心配で重苦しい1週間が過ぎた。


2015年12月10日木曜日

(八)チビの具合②

 その後もチビの卵を見ていない。やはり、あのとき何とか産み出して、チビとクリで始末してしまったのだろうか。不可解だけど、とにかくチビが元どおりになったので、あやさんは安心した。
 それから10日御の11月13日、朝からまたチビの様子がおかしかった。この前、具合が悪くなったときもそうだったと思うけれど、今朝もけっこう冷え込んだ。ところが、あやさんたちはチビがすっかり元気になったので、もう暖房は必要ないと考えて数日前から鳥かごから外していた。さらに悪いことに、昨日は朝からふたり揃っての遠出で、帰宅したのは6時半頃だった。明かりをつけるとみんな喜んで、元気に鳴いていたけれど、テレビからはまもなく気象情報のイントロの音楽が流れ、いっせいにさえずったあと鳥かごには布がかけられた。みんな1日中、鳥かごから出られなかったわけで、少し調子が狂ったかもしれない。チビにそのとき変った様子は見られなかったものの、実際にチビの具合がどうだったかはわからない。。
 いずれにしてもチビが今朝はツボ巣から出てこない。あやさんが急いでチビを中から取り出すと、ふるえているようなザワザワした感じが伝わってくる。寒くて震えているのか苦しくておかしいのかわからないが、とにかく暖めなければと、手の中で温めながら必死で背中に温かい息を吹きかける。それを30分ほどすると。チビの体が落ち着いてきた。
 そこで、手の中にえさを入れて嘴に近づける。けれどもえさは食べず。水をなめただけだった。あやさんは、そのまま暖房を付けたツボ巣に戻して様子をみることにした。
 それが7時半頃で、チビはそのまま寝ていたようだ。それでも、あやさんはえさを食べさせなければと思い、9時頃にまたチビをツボ巣から出して手の中で温める。まだえさをほとんど食べないから心配だけど、さっきよりは落ち着いていて、かなり良くなってきたようなので少し安心する。また暖かいツボ巣に戻して寝かせる。
 そして、正午頃、ツボ巣の下に落ちているチビを見つけた。えさか水が欲しくてツボ巣から出たものの、具合が悪いのでうまくえさ入れに飛び移れずに落ち、そのまま上がれないでいたのだろう。また手に乗せて温め、指に付けた水をなめさせると、ずいぶんなめた。やはり、のどが渇いていたらしい。そのあと少し食べて、小さなフンを出したら、声を出してクリを呼ぶ元気が出てきた。
 とにかく、えさを食べるようになったから、あとは暖かくしていれば大丈夫だろう。

 そして、4時頃、夫がいった。
「チビの鳥かごに大きなフンが落ちてる。チビはフン詰まりだったんだ」
 あやさんはホッとしたけれど、フン詰まりも卵詰まり同様に鳥にとっては命取りになるような危険なことらしい。チビの足は小さくて頼りない感じだから、ふんばる力が弱いはず。春にはよく卵を産んで3羽ものヒナを育てたと関心するばかりで、そのためひ弱な体がさらに弱くなってしまったように思う。クリと離して1羽で静かに暮らさせたい気もするけれど、それはチビの望まないことだろう。

2015年12月4日金曜日

(七)チビの具合①

 11月3日、朝、いつものように鳥かごのおおいの布を外すと、チビが下に落ちていた。チビは足も小さいので、そういうことはよくあるのだけれど、いつまでたっても下にいる。おかしいと思っていると、クリもそばに下りて行き、何か様子が変。
「チビが卵を抱えて飛び上れないみたい」と、夫にいうと、
「卵詰まりかな」と心配そうな返事。
 以前にもそんなことがあって、そのときはスカイカフェのえさ入れに入って動けないでいた。お腹が痛かったようで、手に乗せて暖めてやると、楽になったのかそのあとえさを食べ、まもなく棒状の卵を産んだ。それでも、チビはその後ちゃんとした卵を6つも産んで4羽のヒナをかえしている。そのうち1羽は、生まれてすぐに死んでしまったものの、スー、ミー、ランの3羽は立派に育っている。それは、半年前のことで、もう参道はできているはず。すると、急に冷えてきたから、そのせいかもしれないと思い、あやさんはチビを暖めなければと、手に乗せた。
 手の中で温めていると、チビは心地よいのかじっとしている。そのうちにバサバサとはばたいて、大きなまっ白いフンをした。でも卵はまだ出てこない。
 おなかが空いているだろうと思い、手の中でえさを食べさせると、いつものようにせわしく食べた。でも、相変わらず卵は出てこない。
 夫が卵を出そうとして、チビのお腹をさすっていたけど、お腹の中の卵が潰れてしまったかもしれないと、大変なことをいう。まだお尻から出かかっていないのに強く圧したらしい。
「大丈夫かしら?」
「鳥かごに暖房をつけて、ツボ巣に入れよう」と、いうことになり、チビは鳥かごに戻された。クリも心配そうで落ち着かない様子。夫がいなくなってしまったので、あやさんは家事をしながら、ときどきツボ巣をのぞくことになった。
 そんな中、ツボ巣でバサバサ暴れる音がする。のぞいて見ると、クリもツボ巣の中にいるようなので、チビが卵を産み落とそうとして、暴れているのだろうと思った。
「どうか、無事に卵が出ますように」と、あやさんは祈るばかりだけれど、そのうち、バサバサは止んで静かになった。クリが出てきてえさを食べている。チビはツボ巣のふちにいて、中をのぞいていた。
「卵がでたんだわ。よかった」と思ったものの、確かめるまでは安心できない。
 それから2時間くらいして、あやさんがチビの様子を見に行くと、クリがまたツボ巣のふちに止まって中をのぞいていた。そして、再びツボ巣の中で、バサバサッという音がした。それから静かになって、クリがチビを抱いている。そのまま静かなときがしばらく続いて、クリがツボ巣から尾羽を出して心配そうに中を見ていた。あやさんは祈りながら待つ。
 少しすると、クリとチビが並んでツボ巣から顔を出していた。
「チビが顔を動かしたわ」と、あやさんはホッとする。早く、卵がどうなっているのか知りたいけど、すっかり2羽でツボ巣の入口をふさいでいる。
 夫がきたので、クリたちのツボ巣を見てもらった。ところが、
「何もないようだぞ」という。では、さっきのあのバサバサしたさわぎは何だったのだろう。それにチビもいつもの様子になっている。
 鳥かごの掃除のとき、ツボ巣の中を確かめた夫は、
「やっぱり、何もない」といった。
 チビはそれから寝るまでいつもと変わらない様子で、バサバサすることもなかった。いったい、お腹をいたがっていた卵はどうなったのだろう。あやさんには、チビがあのツボ巣で暴れていたときに、産み落としたと思えるのだけれど、ないということは、チビかクリが潰れて出てきた卵を食べてしまったのだろうか。まるでキツネにつままれたような気分。