2016年2月28日日曜日

(二十三)白文鳥のメグだよ

 ボクが生まれたのは3年前。ユウとトビの1年後だ。そのとき生まれたのはボクだけだったから、お母さんのピポとお父さんのチーは大事に育てたらしいよ。そのうちボクがぐぜりだして、さえずるようになったら、やっとオスが生まれたといって、パパとママが喜んでいた。
 ボクはみんなに可愛がられてのびのび育ったんだ。ママなんか、
「メグちゃんていうと、ちゃんとお返事するのね」なんていって、よくほめていたからな。でも、ボクはずっと独身だったんだ。
 それが去年の秋にクリーム文鳥のランと同じ鳥かごで暮らすようになった。ランはボクの1年後に生まれたクリーム文鳥のクリの子どもで、生後まだ5か月だったけど、一緒に生まれたミーと仲が悪くて、早くに離されて、それでボクのところにきたのさ。おませで美人なんだけど、小さいくせに気が強い。
 まあ、ボクもさ、
「メグは乱暴なんだから。トビちゃんを追いかけてはいけません!」なんて、ママに叱られているからな、お似合いかもな。
 ランはもう、いくつも卵を産んだけど、まだ子どもはいないのさ。だからときどきトビを追いかけていると、パパやママに叱られるわけ。
 トビのやつ、母親のピポに似て逃げるのが素早いんだ。おもしろいんだけど、いつまでもトビを追いかけていると、ランがいい顔しないからな。それに、この前、ママが、
「ランちゃん、スーのところにもどしたほうがいいかしら」なんていうのが聞こえたから、このままじゃまずいかな。
 ランの父親のクリはトビとユウのところで生まれたんだけど、だれの子かわからない。ママとパパが、
「やっぱりお父さんはメグかしら?」なんていってたけど、ボクは知らないよ。
 いまもユウとトビのツボ巣には卵がいくつもあるみたいだから、またヒナがかえったら、パパとママがさわぐだろうな。
 でも、やっぱりボクは知らないよ。

2016年2月22日月曜日

(二十二)2・22はフーの日

 2・22は猫の日だと聞いた。でも、あやさんちではフーの日だ。白文鳥の彼女がこの世を去ったのは去年のきょう。それ以来、数字の2が並ぶと気になったりする。あやさんちにヒナのとき一緒にきたピーが事故がもとで2009年に死んでしまってから5年半、その間に文鳥たちの数は増えたけど、悲しい別れはひとつもなかった。考えてみれば奇跡的なことだったのかもしれない。それがフーが死んでからは、ナナとチビがこの世を去り、ピポまでがいなくなってしまった。去年はそんなひどい年だった。
 それでも新しい3つの生命が誕生し、あやさんちの文鳥たちは1年前と変わらない様子で、にぎやかにさえずり跳び回っている。
 文鳥の一生は人間の10分の1くらいの長さだろうか。いうまでもなく彼らにもそれぞれ違う一生があり、幸運、不運の違いもあるだろう。
 果たしてフーは運のいい生き方ができたかどうかはわからないものの、みんなにいちもく置かれた存在だったことは間違いない。それは彼女がほとんど飛べなくなってからも、そうだったように思う。フーにはある種の威厳ともいえるものがあった。ひとつにはあやさんちに1番長くいて可愛がられてきたということもあっただろうけど、何よりもフーが賢くて優しい文鳥だったことに起因しているように思う。
 フーは飛べなくなって上の止まり木に上がれなくなってしまっても、鳥かごのすみでじっと待っていた。夫のパピが心配そうにそばにいることもあった。ピポはフーをお母さんのように慕っていた。チーにとってはいつまでも〝憧れの人〟だったように思う。子どもたちは勝手だったけど、それでもフーにいちもく置いていた。飛べないのに可愛がられている特別な存在とわかっていたのだろうか。
 あやさんは以前、フーが死んでしまったらどれほど悲しいだろうかと心配したことがある。けれども実際にはほとんど悲しむ暇はなかった。ナナがすぐに出血したこともあったし、ブログを始めたこともあったからだろうけど、何よりも。フーは死んでも、ときどきあやさんのそばにきていると感じられるからだろう。

2016年2月20日土曜日

(二十一)桜文鳥のユウと白文鳥のトビよ

 わたしはユウ。わたしはトビ。わたしたちはチー父さんとピポ母さんの子どもなの。女の子なのに、パパとママが男の子みたいな名前をつけてしまって、そのままになってる。
 生まれたときからずっと一緒で、ふたりで協力して3羽の子どもを育てたのよ。それはちょうど2年前で、わたしたちは2歳だったから、いまはもう4歳。3羽の子どものうち、いまこの家にいるのはクリーム文鳥のクリだけ。桜文鳥のチビは去年、死んでしまったの。
 お母さんのピポがいなくなってまもなくだったから、悲しいことが重なってとても辛かったわ。わたしたちは同じ日に生まれたけど、羽の色も性格も全然違う。
「ユウちゃんは、ひとなつこいわね」っていわれるし、
「トビちゃんはけっこう気難しくて頑固だわ」っていわれてる。
 たまにはケンカもするけれど、普段は仲良しよ。何といってもわたしたちは交代で卵を温めて、3羽のヒナをかえしたんですもの。なかなかのチームワークでしょ?
 ヒナが生まれたとき、パパとママが小さな鳴き声がするっていって驚いていたみたい。まさかメスが2羽で住んでいるところにヒナが生まれるなんて思っていなかったのね。。面白かったわ。
 でも本当は、3羽のヒナを育てるのは大変だったの。特にチビはあまり口を開けなかったから食べさせるのに苦労したわ。それでも何とか育って子どもまで持ったからすごいのよ。だけど若くして死んでしまって、かわいそう。もう1羽のマミはシナモン文鳥だったけど、もらわれて行ってしまい、いまいる子どもはオスのクリだけだけど、元気な孫が3羽もいるから楽しみよ。
 いまはオスのほうが多くなって結婚相手をみつけるのは簡単になったはずだけど、なかなか適当な相手がみつからないわ。わたしたち、このままふたりで暮らすほうが落ち着くかも。
         (桜文鳥のユウと白文鳥のトビ)

2016年2月17日水曜日

(二十)木の上の桜文鳥

 きのうの夕方のことだ。夫と歩いて家を出て30メートルほどのところで、にぎやかな野鳥の声がした。戸建て住宅の並ぶこの辺りはよく野鳥の声がする。夫が近くの庭木を見上げていった。
あれ、あんなところに桜文鳥がいる」
「えっ、どこに?」
「あの木の上のほうにスズメに混じっていた。たしかにホオが白かったから桜文鳥だ」と、うなずく夫。
「どこ? どこへ行った?」
「もう飛んで行ってしまったよ」
 あやさんは自分の目がじれったい。
「元気だった? 保護しなくてよかったのかしら?」
「高いところにいて逃げて行ったから無理だよ」
 夫は探している人がいないか、あとで調べてみるといった。あやさんがその桜文鳥の姿にピポを重ねたのはいうまでもない。前日は低気圧がきて荒れた天気だった。それなのに小鳥たちはきょうも元気に飛んでいる。ピポもあんなふうにどこかの群れに入れてもらっているかもしれないと思うと、少し気持ちが明るくなった。。ピポなら高いところにもビューンと上がれるし、けっこう飛べるから、えささえあれば生きて行けそうだ。もしそうなら、いつか庭のえさ入れにスズメたちに混じってピポがくるかもしれない。
 あやさんは、もう外そうと思っていた庭のフェンスに取り付けた白いえさ入れを、しばらくそのままにすることにした。どうせ捨ててしまう文鳥たちの食べ残しを入れているのだ。スズメやオナガ、ハトなどがきて、毎日きれいに食べてくれる。
 ピポへの想いはつのるばかり。

2016年2月11日木曜日

(十九)シナモン文鳥のルミよ

 わたしはお父さんのチーとお母さんのピポの間に最初に生まれた子どもなの。お父さんとよく間違えられるくらい外見が似ているのよ。お母さんは白文鳥だけど、まだ行方不明なのでお父さんがさびしそう。しょっちゅうパパの腕やママの肩に止まっているけど、わたしはマイとの生活があるから、お父さんをかまってあげられないの。ホントにお母さんたら、どこへ行ってしまったの?
 もう3か月になるし、この前なんか雪が降ったとかですごく寒そうだったから、お母さんのこと心配だわ。
 3か月っていえば、わたしが生まれて3か月のころ、とても大きな揺れがあったのよ。鳥かごが動いて床に落ちそうになって、お母さんなんか、鳥かごの中を跳び回ってた。わたしはひとりで鳥かごにいて、どうしたらいいかわからなくてすごく恐かったわ。そのうちにパパとママが帰ってきたのでホッとしたのを覚えているわ。
 あれからもうすぐ5年になるってホントかしら。わたしも5歳をすぎたわけね。いままた卵を温めているけど、まだ子どもはいないのよ。でも妹のトビとユウのところに子どもが生まれて、その子が子どもを持ったから、わたしはおばあさん(ばあば)って呼ばれる世代になってしまったの。
 わたしのお母さんのピポは6歳半だというから、もう完全に〝ばあば〟なのに本当に心配だわ。
 妹のユウとトビは結婚していないのに、子持ち、孫持ちで、彼女たちの1年あとに生まれた弟のメグは孫のランと暮らしている。だから、夫のマイの家系より、わたしの家系のほうが大勢いる。若い子たちを見ているとたのもしい気もするけれど、みんな自分の天下みたいに暴れるから困るわ。オスが多くなってしまったから、鳥かごから出ても、なんだか落ち着かない感じ。お母さんがいたら、もっと心強いのに……
 わたしは長女だから、しっかりしないとね。

2016年2月4日木曜日

(十八)桜文鳥のココよ

 いま5歳7か月のわたしは、今年の夏至のころには6歳になるの。去年はいろいろなお別れがあって辛かったけど、いまはお父さんと一緒だから安心だわ。
 お母さんのフーを追うようにして、ずっと一緒に暮らしてきたお姉さんのナナは病気になって死んでしまったの。
 ナナは足のおできが大きくなって痛そうだったけど頑張っていて、ママの手の中で痛みが和らいだときなんか、、
「だいじょうぶよ」って、わたしにやさしくいっていたのに……。
 お父さんもひとりぼっちになって寂しそうだったから、一緒に暮らせるようになってよかったわ。いまではこの家で、わたしがメスの中で1番年上なの。お父さんのほうもオスの1番年長者なんだけど。
 本当は、となりの鳥かごに白文鳥のピポがいて、彼女がメスの1番年上のはずだったのに、去年11月に突然いなくなってしまったのよ。
 チーは、ひとりぼっちになってしまったから、やっぱりさびしそう。気の毒だけど、ピポは帰ってくるかもしれないから、チーはずっと待っていて、わたしやお父さんのように新しいパートナーを見つけるのは難しいかもね。だって、もしピポが帰ってきたら、ややこしいことになるでしょ。だから、パパとママが一生懸命に探しているみたい。この前、ピポを見た人がいるらしいっていって出かけて行ったけど、まだ見つからないようだわ。
 早く帰ってくればいいのに。
     (写真はメグとランの鳥かごをのぞく文鳥たち)