ボクの名前はスー。お父さんはクリーム文鳥のクリでお母さんはチビっていう名の桜文鳥だった。ボクはクリーム文鳥のランとシナモン文鳥のミーと一緒に育ったんだけど、ボクの家族ではボクだけが白文鳥なんだ。それでも、おばあさんとひいおばあさんは白文鳥なんだけどさ。ボクは白文鳥といっても、まだまっ白じゃないんだ。尾羽は黒いし背中に模様があるんだよ。ママなんか、
「スーちゃんて、模様があるからわかりやすくていいわ」なんていってるよ。でも、この模様はそのうちに消えてしまうかもしれないんだって。
ボクたち3兄弟は去年の4月に生まれて一緒に育ったんだけど、1年たったいまではみんな別の鳥かごで暮らしている。でも水浴びはいまでも同じ白い入れ物でしているよ。それでもランは最近、メグのまねをして鳥かご内の水飲みでしているみたいだけど。ボクなんかマイみたいに水道の蛇口に行って浴びることもあるんだ。ママの手のプールなんだけと、最初はちょっと入るのが恐かった。でも、いまはマイに負けないで浴びているんだ。だからボクの水浴び場は2か所もあるんだよ。ママの手では独りで浴びているんだけど、入れ物では、たまにランと浴びるんだ。だけど、それもだいぶ少なくなった。
兄弟といっても近ごろはバラバラで、子どものころがなつかしいな。ランはもうメグのお嫁さんになっちゃったから、なんとなくよそよそしいんだよな。ボクも相手が欲しいけど、こうオスばかり多くちゃ難しそうだな。独身のメスといえばトビとユウしかいないんだから。どちらもだいぶ年上だしな。もう新しいヒナは生まれないのかな? もっとも生まれてくるのがオスじゃしょうがないけど。
ボクはランとスーと一緒に生まれたんだ。小さいとき、ランとよくケンカをしていた。ランのやつ、ボクの頭をこずいたりして、生意気な女だった。スーが間に入って止めてくれたけど、なんであいつ、あんなだったんだ?
いま思うと不思議だけど、ボクもランもまだ子どもだったからな。それにしてもランは、あのころから気になるやつだった。ランのやつ気が強いのに、スーとは仲良くしていたからな。もしかしたらボクのこと邪魔だったのかもしれない。
そうか、ボク、ちょっかいかけて、こっちを向かせようとしたんだな、きっと。そしたら怒って、ボクがそばに行くと追い払ったんだ。あいつおませなんだ。
それで、ずっと年上のメグとなんか一緒にされちゃってさ、かわいそう。
でも、なんだかこのごろ、ランのやつ、ボクが近づいても怒らないし、優しくなって、ボクに気があるみたいなんだ。 この前なんか自分の鳥かごにもどらないで、ボクのところに入ってきた。それで、しばらく一緒にすごしたんだよ。楽しかったなあ。もうボクの頭をこずいたりしないし、メグがきても着いて行かなかった。いっそのことボクのお嫁さんになればいいのにって思ったんだけど、またメグのところにもどっちゃった。
メグなんかよりボクのほうがずっと優しいし、もうすぐケンカもこっちの方が勝つようになるのにさ。
けど、よく考えてみればランはボクのえさを食べると出て行っちゃうんだよな。もしかして、あいつ可愛い顔してるくせに、ただの大食いなのかな?
ランがミーの鳥かごに入ってからも、メグはトビを追いかけている。トビはといえばメグよりも同じ白文鳥のマイのほうが好きらしい。メグの放鳥は最後になるため、マイとトビが鳥かごから出ている時間が長く重なっている。ただマイはトビに気があるもののメグと違って妻のルミに気を遣っている。フーとパピの子だけあって優しいのだろう。
そして、ランの反撃から数日たった夕方のこと、またランがミーの鳥かごに入った。ミーと一緒にしばらくえさを食べていたから、お腹が空いていたのだろう。食べ終わったら鳥かごから出るかもしれないと思い、とびらをあけておいたけれど、ランはそのまま居座った。夫も、
「また寝る頃になって暴れるんじゃ困るな」といって、とびらを閉めないで、ランが出てくるのを待った。
するとしばらくしてランが鳥かごから出てきて、ミーも着いてくる。また、メグとランとミーがメグたちの鳥かごの上に止まり、それから面白いことが始まった。自信をつけたミーがランのそばにきたメグを追い払おうとしたのだ。メグも負けていないからケンカになった。それを見た夫がいう。
「ランは悪いヤツだなあ。まるで魔性の女みたいだ」
でも、あやさんはいい返す。
「だけど、悪いのはメグよ。ランは頭がいいのよ」
夫は「まあ、そうだな」といったものの、かなりミーに同情しているようす。
たしかに、1番の被害者はミーのようだけど、あやさんはさらにいった。
ミーちゃんだって、ランにちょっとだけどふり向いてもらえて、少しはよかったんじゃないの。自信もつけたようだし」
「そうだな」と夫の気のない声がして、静かになった文鳥たちの就寝のため居間の明りが消された。
ランはその翌日も同じように夕方ミーの鳥かごに入ってえさを食べ、また自分の鳥かごにもどったものの、それ以後、ミーの鳥かごに入っていない。素直にメグに着いて自分の鳥かごにもどっているから、この数回の反撃が功を奏してメグが少しはやさしくなったのだろうか。
と、思っていたら、きょうもランがミーの鳥かごに入って仲良くえさを食べていた。???
きょう3月11日、東日本大震災から5年を迎え追悼の行事があちこちで行われた。朝のテレビを見ていたら、この日にどこかの学校給食に赤飯が出るというのが話題になっていた。それは卒業祝いの行事の一環で、今年たまたま11日になってしまったのだというから、もちろん他意はないのだろう。しかしわたしは、この行事をきょうやることに対する賛否の意見を聞いていて愕然とした。
「大震災と卒業祝いは関係ない。じゃあ誕生日の祝いもできないのか」といったものが大半で、公教育に対する視点がないどころか、まるで被災者に対して他人事。口では被災者に寄り添ってなんてすらっといっているのに、どういうこと?
だれもこの日に誕生日を祝ってはいけないといっているわけではない。公教育がこのような日をとらえて、子どもたちに優しさや教訓を学ばせることもできないではしょうがない。
赤飯を出す日が3月11日に重なったことに気づかなかった主催者側のその鈍感さは、教育に携わる者としての資質を疑う。配慮さえできない学校は、何を教えているのだろうか。これは、広島のまちがった進路指導によって死に追いやられた少年のことと無関係ではないだろう。
わたしの名前はラン。お父さんと同じクリーム文鳥なの。お母さんは、わたしたち兄弟を育ててから、去年、死んでしまったの。スーとミーと一緒に育ったんだけど、ミーとはケンカばかりしていたから、去年の秋にわたしはメグのところに移されてしまったのよ。メグはもう大人だから、しばらく平和に暮らしていたんだけど、最近わたしメグのことで頭にきている。
それでこの前、ついに仕返ししてやったわ。わたしメグのいる自分の鳥かごにもどらなかったの。それでどうなったかですって?
それは夕方だったけど、メグとミーとわたしの3羽が鳥かごにもどらなかったらママに叱られて、まずメグが鳥かごに入ったの。それでもわたしは着いて行かなかった。するとメグがまた出てきたわ。わたしがミーと一緒だったから、少しは気になったんでしょうね。そこでわたし、ミーに着いて行ったの。ミーの鳥かごに入って一緒にえさを食べだしたら、メグはあきらめて、自分の鳥かごにもどったみたい。
そのまましばらくミーと暮らすって手もあったんだけど、パパが布をかけるとき、やっぱり自分のところにもどらなくちゃって思ってね。けっきょくメグのところにもどったわけ。
これでメグにわたしの気持ちが伝わったかどうかわからないけど、少しはこりて、トビを追いかけなくなればいいのに。でも多分、ダメよね。だけど、わたしはちゃんと意思表示したんだから。
ほかにパートナーにしてもいいようなオスが何羽もいるし、わたしメグになんか負けないわよ。
近ごろ、メグがしつこくトビを追いかけている。去年ランと一緒に暮らしだしたころは、借りてきた猫みたいに静かだったのに、また独身時代にもどってしまったように乱暴だ。いまは1年年上の姉のトビを追いかけているけれど、夫によれば前はよく母親のピポを追いかけていたらしい。ピポがいなくなった日は家の点検が終わってからだったため、いっせいに放鳥していた。みんなで飛びまわって騒いていたから、そのときメグはピポを追いかけていたかもしれない。ピポは夫が傘をとりにもどってきたとき、逃げて行ってそのまま外に飛び出した可能性もあると夫がいう。たしかにそれも考えられるものの、だからといってメグを責められない。すべては飼い主に責任があるのだから。
それにしてもメグは、トビが気の毒なくらい執拗に追いかけている。ときどきユウがトビの加勢にいくけれど、ほかのメスには見向きもしないから、白文鳥に関心があるようだ。
メグに追われてトビはしばしばあやさんの部屋に逃げてくる。ところが最近はメグまでトビを追ってあやさんの部屋にくるようになった。このありさまに夫は怒ってメグの放鳥はしないといった。
それでもランが同じ鳥かごにいるから、メグだけ閉じ込めておくわけにもいかず、最後に鳥かごを開けることになった。
この前などは、メグがトビを捕まえて上に乗ると、それを見たスーが何を思ったか、さらに上に乗り3段になっていたという。もちろんメグは怒ったようだけど、スーは見かねて行動をしたのだろうか。
そして、いよいよ腹に据えかねたランが反撃に出た。それは、ほとんどの文鳥たちが鳥かごにもどった夕方だった。メグとラン、それにミーの3羽がまだメグたちの鳥かごの上にいた。あやさんが叱ると、メグは自分の鳥かごに入った。と思ったら、またすぐに出てくる。ランが入らずにミーといるから気になるのだろうと思った。
けれども、ランがメグに着いて鳥かごに入ろうと思えば簡単に入れるはずで、ミーにそれを邪魔するほどの力はない。何かおかしいのだ。どうもランはメグについて鳥かごにもどりたくないようすで、ミーのそばにいる。あやさんは3羽をそのままにして夕食の準備を始めた。
少しして静かになったのでメグの鳥かごをのぞくと、だれもいない。なんとミーの鳥かごにランとミーが入っていた。えさを食べていたので、そのままとびらを閉めてメグをさがすと、自分の鳥かごに入ったものかどうかとウロウロしている。ランは落ち着いたようすで、この日、メグに愛想をつかしてミーを選んだようだった。ランはあんなにミーをきらっていたのにと、あやさんはランの変化に驚き、2羽の成長を感じていた。
ランはよそのメスを追いかけているメグよりも、自分のことを想い続けてくれるミーのほうがよくなったのではないか、だとしてもメグは自業自得だからしょうがないと思った。
ところが、この夜、テレビから気象情報が流れて夫が鳥かごに布をかけだすと、新たな展開があった。
「ランが暴れ出して鳥かごから出たがったんだ」と夫。鳥かごをあけると、ランが飛び出して部屋の中を逃げ回ったという。メグの鳥かごをあけてやると、メグも出てきて2羽で飛びまわっていたものの、けっきょく元のさやに納まりメグと一緒に自分の鳥かごにもどったのだ。
これで少しはメグもこりたかどうか、これからが楽しみだけれど、それにしてもミーは〝いいつらの皮〟で、ぬか喜びだったと、さぞがっかりしたことだろう。
ボクはクリーム文鳥だからクリっていう名前なんだ。この家でクリーム文鳥が生まれたのはボクが最初だって。ボクのお母さんはトビとユウだけど、お父さんがだれだか、よくわからないんだ。でも、いつかママとパパが話してたな。
「やっぱりメグかしら。マイってこともあるけど」なんて。
ボクとしては、だれがお父さんでもいいんだけど、育ててくれたのはユウとトビだから、お母さんはふたりもいるんだ。
ボクが生まれたのは2年前。一緒に生まれ育った桜文鳥のチビとの間に子どもを3羽も持った。だけどチビのやつ、体が弱くてボクを残して死んでしまったんだ。チビは体は小さかったけど、優しくて気のつくやつだった。いつもボクに気を遣ってくれたから、いなくなってしまってボクは寂しいよ。
それでもチビが産んでくれた子どもが3羽もいるから、ボクは何とか元気になれた。子どもは白文鳥のスーとクリーム文鳥のラン、それにシナモン文鳥のミーで、チビと同じ桜文鳥はいないんだ。この家では去年チビのほかにも桜文鳥が死んでしまった。ナナっていう名のおばさんだったけど、それでいまいる桜文鳥は、ココとユウの2羽だけになってしまった。桜文鳥は丈夫だと聞いたけど、そうとも限らないな。
いまこの家で1番多いのは白文鳥かな? マイ、トビ、メグ、ユウだけど、あれ? シナモン文鳥のほうが多いのかな? パピ、チー、ルミ、ミーだから、同じ4羽か。あとはボクとランがクリームで桜と同数か。そういえば去年、白文鳥も2羽いなくなったからな。とにかく去年はチビも亡くなってしまい悲しい年だった。
それでもボクをはじめ、パートナーを失ったみんな、いまは何とか元気にやっているよ。みんなで家の中を跳び回ったりしてね。