2015年8月14日金曜日

(十八)トビとユウ①

  地面まで跳ねてしまった兎年がようやく終わり、新しい年・辰年を迎える。元旦は息子の家族とおせちを食べて過ごしたけれど、あとは老夫婦と文鳥たちのいつもの日々。あやさんは、今年はこのまま平和であって欲しいと願う。
 七草が過ぎると、まもなくピポが1年ぶりに卵を産んだ。そして、ナナとココも卵を産んで、ピポの子どものルミまでが、マイと一緒になって初めての卵を産んでいる。
 ルミはピポたち両親のように、マイと交代でツボ巣に入って真面目に卵を温めている。ナナとココの鳥かご内の2つのツボ巣にも、それぞれの産んだ卵がたくさんあって、自分の卵をちゃんと温めているけど、こちらは多分、無精卵だから、かえることはないだろう。
「ナナちゃんとココちゃんのお婿さん、いないわね」
 いつもかえらない卵を真剣に温めている2羽が気の毒になって、あやさんがそういうと、夫が応じた。
「まあ、そういう一生もあるさ。成り行きに任せよう」
 あやさんは妙に納得する。たしかに結婚相手がいないからといって、これからナナとココにちょうどよいオスを探す気にはなれない。ピポの産んだ卵かルミの卵がかえって、ナナとココの相手ができれば、それに越したことはない。そう期待するのが一番だ。
 それにしても、こういうときは、みんな鳥かごから出ても、そのうち自分から戻ってツボ巣に入っているから手がかからなくていい。
 そして、1月30日、ピポの産んだ4つの卵のうち、2つがかえった。もしオスなら、ナナとココのお婿さんにもってこいだとばかりに、ふたりは喜んで、名前を男の子らしく「ユウ」と「トビ」にした。体が大きくて人なつこいほうが「ユウ」、小さくて頑固そうなほうが「トビ」になった。
 2月半ばには、夫のさしえが始まり、またピポとチーを鳥かごから出す。するとピポは、ルミのときとは違い、ヒナのことが気になるようで、夫がフゴからヒナたちを取り出すと、そばに飛んでくる。そして、フーがしていたように夫と一緒にえさを食べさせだした。
 ピポが口移しでえさを食べさせると、ヒナはにぎやかに鳴いて喜ぶ。するとチーまでがそばにきて、ヒナのえさやりに参加する。まるでフーとパピのときのようになって、ルミのときとは大違い。ヒナが2羽に増えたので、夫だけに任せておけないとでも思ったのだろうか。
 それともピポとチーが、この1年で成長して、親らしくなったのだろうか。理由はわからないけど、なかなかじっとしてはいないものの、夫のそばにきては、さしえを手伝ったり様子を見たりしている。そんなピポとチーの姿に思わずふたりの顔がほころぶ。
 トビが〝育て親〟の棒ではなかなか口をあけないとき、親鳥が食べさせたり、そばで鳴いて口をあけさせたりする。それで頑固なトビも、何とか夫のさしえを食べるようになった。ルミとユウに比べて、トビのさしえはスムーズにはいかなかったから、ピポにはそれがわかっていたのかもしれない。
  トビは白文鳥とわかり、ユウも、ナナやココのときとは違って、早い段階で桜文鳥と判明した。どうも白文鳥のほうが桜文鳥よりも小ぶりで神経質な感じがするけど、この特性が一般的なものなのかは、わからない。

 トビとユウが飛べるようになると、ピポは一緒に飛んで止まる場所を教えたりして、楽しそうだ。そんなときでもチーは、相変わらずカーテンにもぐっていて関係ない様子。カーテンから夫に引きずり出されるのを待っているのだろう。チーがトビやユウと遊んだりしないので、ピポひとりで面倒を見ている。
 ルミが生まれたとき、ピポは1歳半にもなっていなかったから、まだ子どもだったのかもしれない。トビとユウが生まれたのはその1年後だから、2歳半になっていた。
 文鳥の平均寿命が7~8年とすると、人間でいえば前回は10代後半、今回は20代後半で子育てをしているようなものだろうから、やはり親らしくなれる年齢というのがあるような気もする。
 トビは、偶然ながら、その名のとおり小さな体でピョーンと飛ぶけど、あまり人間になじまない様子。
それに比べて、ユウのほうは人なつこくて、ひょうきんだ。
 ある日、夫の帰りが遅かったので、トビとユウがお腹をすかしているかもしれないと思ったあやさんが、〝育て親〟の代わりに人差し指に湿らしたむきえを付けて鳥かごの中に差し出すと、トビは恐がって鳥かごの奥に逃げてしまった。ところがユウは平気で人差し指に着いたえさを食べる。お腹がすいていたのだろうけど、愛嬌のある目でこちらを見ては食べるので、とても可愛い。
 そういえば、ピポの父親は桜文鳥だけど、彼もひょうきん者だと聞いているから、ユウは、おじいさんに似ているのかもしれない。
 震災を知らない2羽は、たまにくる自信の揺れにも動揺するふうもなく、順調に育っている。あやさんちもようやく落ち着きを取り戻してきたものの、トビとユウは、いまだにぐぜらない。
 ピポがまた次の卵を産んだ。マイがピポのツボ巣に入って、その卵を抱いている。よその卵がどんなものかと、抱き心地を比べてみているのだろうか。もっとも、マイは卵の上が好きなようで、比べていたというより、ただ単純に居心地のいい卵の上にいたかっただけかもしれない。自分の鳥かごでは、なかなかツボ巣から出ないため、よくルミに追い出されていた。
 マイがピポのツボ巣に入っているとき、ピポとチーは鳥かごから出て遊びに夢中になっている。だから気付いていないようにも見えるけど、気付いていても、気心の知れたマイならかまわないのかもしれない。いずれにしても急いで帰ってくる様子はない。
 今年になって、みんな次々と卵を産んでいる。昨年は大地震に見舞われて、1つも産まなかったせいだろうか、そういえば地面の揺れもだいぶ静かになってきた。 (つづく)

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