2015年8月21日金曜日

(十八)トビとユウ②

 トビとユウはどちらもメスのようだけど、名前はいまさら変えられないから、そのままになった。ナナとココのお相手はお預けとなってしまい、フリーのメスが4羽になった。
 ふたりはマイたちの卵に期待したものの、こちらはかえらず、その後にピポが産んだ卵もかえっていない。
 マイは鳥かごの中にティッシュペーパーをくわえて行き、ツボ巣の入口にのれんのようにたらしている。卵が外から見えないようにしているようだけど、オスはこの時期になると紙切れを運ぶとはいえ、のれんをたらすのはマイだけだ。そしてルミと交代で真剣に温めている。それでも、まだ1つもかえっていない。
 みんな卵を温めているときは、鳥かごから出ても、少し経てば、どちらかがちゃんとツボ巣に戻っていて、それぞれ自分の役割を果たしている。それでも20日たっても、かえらない卵がほとんどで、そんなとき、彼らはどんな気持ちでいるのだろうか。喜んでいないのは当然だけど、どれくらい寂しいのだろうと、あやさんは気になった。
 フーは飛べなくなってからは、鳥かごの中でも自由に動けない。フーだけ高さのない別の鳥かごに移すことも考えられるけど、パピと別れて暮らすのは、かえってフーによくない気もするので、このまま同じ鳥かごに入れておくことにした。
 夫がフーたちの鳥かごの止まり木を工夫して、何とか自由にえさが食べられるようにしたけど、フーはときどき飛び移り損なって下に落ちている。初めのうちは自力で止まり木に戻ろうとしては、どこかに頭をぶつけて、目を腫らしたりしていたけど、だんだん賢くなってきて、最近では夫やあやさんに上げてもらうのを待っている。
 フーが止まり木から落ちると、たいていパピが鳴いて知らせるから、その声を聞いてあやさんが見に行くのだけれど、ただ、パピが鳴くのはフーが落ちたときとは限らない。フーがうまくえさ入れに飛び移れたときも、やはり、
「ホッホ、ホチョチョン、ホチョチョン」といい声で鳴く。この場合は、フーをほめて鳴くようだけど、あやさんには同じに聞こえるから、紛らわしい。
 困るのは、ふたりで長い時間家を空けるときで、そんなときにはフーが落ちてもいいように、鳥かごの下に水を置き、えさを撒いておく。
 いつもパピに感心するのは、夜中にフーがツボ巣から下に落ちないようにと、ツボ巣の入口の止り木でフーと向き合って眠ることだ。また、放鳥した後、フーを鳥かごに戻したときに、夫が、
「パピちゃん、フーちゃんは鳥かごに入ったよ」といえば、パピはすぐに鳥かごに戻る。パピがいるから、フーは何とか元気でいられるのだろう。
 フーの水浴びはふたりがかりでしていて、台所の蛇口まで連れて行く。あやさんが手の中に水を溜めて浴びさせ、浴び終わったら夫が受け取ってソファーまで連れて行く。パピもフーと一緒に水浴びをするので、やはり浴び終わったらフーと並んで夫の手に乗る。そしてソファーまで運んでもらうのだけど、パピは自分で飛んできて浴びるくせに、帰りはフーと一緒に運んでもらうのだから、けっこう横着なところもある。
 ほかに手のひらのプールに入るのはマイとルミで、ナナもマイと入りたがって飛んでくる。ナナがあやさんの肩からプールに入ろうと腕に下りると、マイやルミに追い払われてしまう。それでもナナは、しつこくまた水に入ろうとするものの、2羽が浴びるスペースしかないから入れない。初めのうちは、ルミがナナに追い払われることもあったけど、最近では、ルミはマイを傘に着て、ナナを追い払っている。ナナは仕方なくマイたちが浴び終わって飛んで行ってから、あやさんにいわれてひとりで浴びているけれど、やはりひとりでは、つまらなそうだ。ココを呼んだりするけど、ココはプールに入るのが恐いようで、水は飲んでも中には入らない。そしてナナが浴びるのを見ていたりする。また、ピポは手のひらのプールに1度も入ったことのないチーに気を遣って、近頃は入らなくなった。
 ところで、ナナ・ココ姉妹は、双子のように見分けが難しい。性格が違うから、どちらかわかるけど、見分けるのには、尾羽の付け根を見ればいい。少し白い部分があるのがナナで、ココにはない。
ココとだんだん見分けにくくなってきたのは、むしろ、ユウだ。ユウの体が大きくなるにつれて、そっくりになってきた。
「ココちゃん、ダメよ。フーちゃんはお母さんでしょ」などと、近づいてきたココがフーを乱暴にどけたりしないように追い払おうとして、あやさんが間違いに気づく。そして、
「あ、ユウちゃんだったの。ごめん、ごめん。ユウはそんなことしないものね」などと、ユウに謝ったりしている。ユウはまた、ピポの子どもだけあって、遊びを考え出した。
 1つは、あやさんがソファーに腰かけて組んだ足の膝から下りるもので、
「ユウちゃん、トントントン、トントントン」というと、体を横向きにして、足のスロープをトントントンと床まで下る。
 もう1つは、巻き上げカーテンを引くひもにつかまって、ターザンのように体を揺らすことだ。そんな遊びをしたのはユウだけだから、さすがにピポの子どもだけあると感心する。
 トビも、もっと白が増えてきたら、ピポそっくりになるだろう。シナモン文鳥のルミだって、ときどきチーと間違えて、フーのそばにきたら追い払ってしまう。たいていすぐに、どちらかわかるのだけれど、紛らわしいのは確かだ。
 トビは文字どおり、小さいきれいな体でピューンといきおいよく飛ぶ。無鉄砲に台所に飛んで行って、どこかに消えてしまった。探して呼んでも応えない。ユウに比べて人にあまりなつこうとしないで頑固な感じがするから、こんなとき鳴くはずはないとは思うけど、名前を呼んで探し回る。台所に飛んで行ったことは間違いないから、電気窯の陰まで調べる。すると、白い小さなものがいきなり飛び上って居間のほうに飛んで行った。性能のいい小型の円盤みたいで、やはり母親のピポの運動神経を受けついでいる。
 1月30日生まれの、トビとユウが加わって、あやさんちの文鳥は10羽になった。オスが3羽とメスが7羽で、だいぶメスのほうが多い。かえらなかったたくさんの卵が、夫によってツボ巣から片づけられた。

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