「きょうは、ココがパピの鳥かごに入ったぞ」
「あら、もうすっかりクリのところに居ついたと思ったのに、どうしたのかしら」と、あやさんは不思議でしょうがない。
放鳥時にはクリと一緒に床の上を歩いていたし、あれ以来、いつもクリの鳥かごに戻っている。
もしかしたら、クリとケンカをしたのかもしれないと、クリの様子をきくと、
「ん、クリはおとなしくひとりで入ったよ」と夫。クリは平然としていて、慌ててココを呼んでいるふうでもないから、仲違いしたわけでもなさそうだ。
「たまにはパピのところに行かないと悪いと思ったのかしら」と、あやさんは考えた。
ところが鳥かごに布をかけるときになって夫がいった。
「ココはクリのところに戻ったぞ」
「あら、せっかくパピのところに入ったのに、パピが可哀想だわ」
あやさんがそういうと、夫がいいわけをした。
「ココがパピの鳥かごから出たがったんだ」
「じゃあ、なぜ、パピのところに入ったのかしら」
「どうも、パピが鳥かごに戻りやすいように、一緒に入ったみたいなんだな。そのままいるつもりはなかったんだ」
夫のいうとおりだとしたら、ココは優しいのかもしれない。でも、パピのことを考えたらどうなのだろう。パピはがっかりしてさっさとツボ巣に入ってしまった。パピもクリも妻に先立たれた身だから、ココの役目も大変といえば大変。
つぎの日の午前中。パピが鳥かごの中でいい声で盛んに鳴いていた。
「ホッホッ、ホチョチョンホチョチョン」居間はにぎやかで、「チュンチュンチュン」という別の鳴き声もする。行ってみると、ココがパピの声に応えて鳴いていた。いったいなんていっていたのだろう。もしかしたら、
「もう、こっちって決めたのよ。お父さん、わたしのこと諦めて、しっかりしてよ」なんていっていたのかな?
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