2015年7月17日金曜日

(十五)ルミは黄金色①

 それからしばらくすると、夫がナナとココを見ていった。
「どちらも、パピと同じ赤い目をしているな」
 ようやく2羽の頭と尾の色が濃くなってきた。すると、シナモン文鳥か桜文鳥のどちらかのようだ。そして間もなく、頬の辺りが白くなったので、桜文鳥だとわかった。
「だけど、どうして、白文鳥とシナモン文鳥の両親から、ぜんぜん色の違う桜文鳥が生まれるのかしら」
 あやさんは、フーとパピの間に桜文鳥など生まれないように思っていたから、夫にきいた。すると、
「文鳥は、そういうものなのさ」と、答にならない返答があった。
 文鳥には、白文鳥、シナモン文鳥、桜文鳥のほかに、クリーム文鳥とかシルバー文鳥、並文鳥なんていうのもいるらしいけど、それは人間でいう人種の違いのようなものなのだろうか。
 そう考えてみるものの、では黄色人種と白人の両親から黒人の子が生まれるだろうかと、疑問が深まる。
 いま、あやさんちには、白文鳥が3羽(フー、ピポ、マイ)、シナモン文鳥が2羽(パピ、チー)、桜文鳥が2羽(ナナ、ココ)いるけれど、子どもたちは、あまりあやさんのいうことをきかない。遊び呆けて鳥かごに戻らないとき叱っても、なかなかすぐには従わない。こちらに屈服するような形にはなりたくないのか、けっこう意地っ張りでプライドが高い。
 以前はフーが状況を把握して鳥かごの入口に止まり、みんなに手本を示していたのに、怪我をしてからは、そんなこともできなくなった。パピはフーが鳥かごに戻れば、すぐに自分も入るが、リーダーのいないいまでは、みんなを鳥かごに戻すのはやっかいだ。
 そんなとき、あやさんはついカッとなってしまうけど、そこで怒っても、彼らは喜々として逃げ回るだけ。叱ると逆効果で、意地でもいうことをきかない。それでも叱っておけば、こちらが怒っているのは伝わるから、どんなときに叱られるかわかるはず。
 ナナとココはいつまでも遊んでいて、夫にもよく叱られている。それでも、お腹が空くと自分から戻っていたりする。そんなときにはほめるけど、やはり叱るよりほめるほうが学習効果があるようだ。
 ピポの場合は知能犯で、手に止まって鳥かごに戻る振りをし、あやさんが出入口を開けると、先に鳥かごに戻っていたチーを誘い出してしまう。それをゲームのように楽しんでいるから始末が悪い。
 マイはぐぜり出すと、チーに着いて行くことが多くなった。あれほどチーとぶつかっていたのに、いまでは兄貴のように慕っている。
 チーのほうは、かなり迷惑そうだけど、自分を慕って真似をするのだから仕方ないと思っているのか怒らない。チーがウロウロしているのは、戸惑っているからかもしれない。
 そして、これもチーを見習ってか、マイはピポに想いを寄せているらしい。もしかしたら、〝憧れのお姉さん〟という感じなのかもしれないけど、チーと同じ鳴き方をして、ピポに迫るようになった。
 あやさんは、父親のパピのようないい声で鳴いてほしいと思っていたのに、マイの長いさえずりは、いつのまにかチーにそっくりで、
「ポピポピチューン、チチチチチューンチューン」ときて、そのあとがいけない。
「グルルル―、ブルルルルー」と続くから、変な鳴き声が増えてしまってがっかりする。
 また、チーの真似はそれだけにとどまらない。チーが鳴きながらチョンチョンダンスを始めると、マイがすぐにそばに飛んで行き、並んで同じように跳ねる。そこまではいいとしても、マイはそのままチーの上に乗ってしまうから、チーの怒ること怒ること。チーは唸り声を上げて逃げるものの、マイは執拗に追って行き、チーのそばから離れない。チーはそのままダンスの続きを諦めるしかなかった。
 文鳥たちにはそれぞれに想いを寄せる相手がいるようで、チーは、やはりフーのことが一番好きらしい。マイはピポが好きなようで、ナナは兄のマイが大好きで、いつも後を追っている。やはりマイの妹のココは、チーに気があるらしい。
 マイはチーとピポを追いかけ、そのマイにナナが着いて行く。そして、ココもナナのそばに行く。いまのところ、そんな構図になっているけど、パピが鳥かごから出てくると、ナナ、ココはパピにくっついていることも多い。この姉妹は、いつもつるんでいて体も大きいから、ピポなどは、とてもかなわない。利口なピポは、争う前に逃げている。
 フーはだいぶ飛べるようになったものの、お腹に卵を抱えると、重みでうまく飛べなかった。朝、鳥かごの布を外すとツボ巣から落ちていて、あやさんが手を差し出すと冷たい足で乗ってくる。手の中で温めて戻してやるけれど、足と飛ぶ力がかなり弱くなっている。
 そんな状態だから、卵をうまく産み落とせないこともあり、そんなときは夫がお腹をさすって卵を出してやった。
 とにかく産卵は大変なのに、そうやって産んだ卵も軟卵だったりして、もう、かえることはないようだ。
 そのうちに、巨大な卵を1つ産み、パピと交代で温めていたけど、それもかえらず、そんなことを2回ほどくり返して、それからは産んでないから、もうフーの子が生まれることはないだろう。フーの体を思えば、そのほうがいい。
 そんななか、ピポがチーと暮らしてから初めて、卵を産んだ。9月末のことで、ツボ巣にある3つの卵をチーがピポ以上に熱心に温めている。あのチーにしては上出来だと喜んで見ていたけど、結局どれもかえらなかった。
「ピポの卵は小さいからな。ヒナが生まれるのは難しいかもな」
 夫がそういったので、あやさんは少しがっかりしたけど、これ以上、文鳥が増えても困るから、それはそれでいいような気になった。
 そして、12月に入り、今年もあと1か月。ピポたちのツボ巣にはまた卵があった。中旬になると、ピポがツボ巣から尾羽を出して、中をのぞいていた。
「奥には卵があるけど、もしや?」と思っていると、翌日には、ピポとチーが忙しそうにツボ巣に出入りしている。やはり卵がかえったらしい。
 あくる日には、小さな鳴き声も聞こえて、3つの卵のうちのどれかが、間違いなくかえったようだ。
 かえったのは1羽だけだったものの、とにかくピポとチーの子どもが生まれた。ヒナの誕生日は12月12日で、その後もツボ巣の中で元気な声をあげている。
「あのチーが親になって、懸命にヒナにえさをやっている」
 そう思うと、感慨深いものがある。
 ヒナの名前は「ルミ」になり、献身的にえさやりをするピポとチーに守られて、順調に育っている。
 チーとピポの第一子の誕生は、期待していなかっただけに、大きな喜びになった。そして、老夫婦の会話もはずむ。
「メスだったら、マイの奥さんにしよう」
「オスだったら、ナナとココのどっちと一緒になるかしら」
(つづく)

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