2015年7月20日月曜日

(十五)ルミは黄金色②

 そして、新しい年がやってきて、夫が正月からヒナのえづけを始めた。親のいるツボ巣から出して、暖房器を入れたフゴに移しても、ピポとチーには様子がわかっているようで、騒ぐことはなかった。
 さしえを始める時刻になると、フーとパピのときのように、ピポとチーを鳥かごから出す。すると、うれしそうな声を上げて夫のそばに飛んで行き、フゴの中のヒナをのぞく。けれども、その場に留まらず、巻き上げカーテンのところに行く。まるで夫を手伝う様子はない。それでも夫がルミに〝育て親〟で食べさせ出すと、ピポがちょっと見に下りてきた。するとチーも真似して下りてくる。
 ところが2羽は、フゴのふちに止まってルミを見ただけで、また巻き上げカーテンの中にもぐってしまう。いつもピポが先で、チーはその後について動いているけど、遊び始めてしまったようだ。
 それでも少しは気になるのか、ピポがまた、ちょこっと様子を見に下りてくる。するとチーも続いて下りてくるけど、だからといって、ルミのえさやりは夫に任せっきりで、飛び回っている。やっとえさやりから解放されて自由になったから、うれしくてしょうがないのだろう。子どものようにはしゃいでいて、フーたちのときとは、全く違う反応に、ふたりは顔を見合わせた。
 若い両親に、すっかり見放された格好のルミだけど、夫のさしえをよく食べて、もう親がいなくても問題なさそうだ。ルミは小さな細い体をして活発に動く。活動的なのは母親ゆずりなのかもしれない。
 そのうち夫は、ルミのさしえの時刻になっても、ピポたち親鳥を鳥かごから出さなくなった。それでも2羽は、パピたちのように騒いだりはしない。当てが外れて少しがっかりした様子にも見えるものの、「それならそれでいい」といった感じで、おとなしい。
 ところで、ルミは何文鳥なのだろう。最初のうちはみんなと同じ茶色っぽい羽毛だったけど、ナナとココのときのようになかなかわからないから、白文鳥ではなさそうだ。白文鳥なら、もうどこかに白い羽が見えるはず。いまはココやナナとも違う色をしていて、全体が黄色っぽいから、桜文鳥でもなさそうだ。
「ルミはクリーム文鳥かもしれないな」
 夫がそういったので、希少な新種の誕生かもしれないと期待が高まった。何でもクリーム文鳥というのは、シナモンや白文鳥の掛け合わせで生まれてくるものらしい。そういえばパピはシナモン文鳥だけど、クリームスプリットとかいって、クリーム文鳥のなりそこないのシナモン文鳥だと聞いている。だから、そう簡単にはクリーム文鳥というのは生まれないのかもしれない。どんなクリーム色なのか、あやさんも見てみたい。
 ルミは日に日に羽毛の色が濃くなってきて、ついに黄金のような輝きを見せだした。
「ルミは、どうもクリームじゃないな」
 夫がこんどはそういいだした。
「じゃあ一体、何文鳥?」
「これは黄金文鳥かもしれないぞ」
 あやさんは初めて耳にする種類に、
「そんな文鳥もいるの?」ときく。
「知らないが、羽が黄金色をしている」
 夫はすましてそういったけど、いずれにしても、そのうちにわかるはずだ。
 それにしても「黄金色」とは、豪華な色なので、見ていると、宝くじでも当たりそうな気がしてくる。
黄金色のルミは、まもなく自分でえさを食べられるようになった。ルミの場合は、親鳥が早くにえさやりを放棄したわけだけど、それでもちゃんと、ピポが母親だとわかっているらしい。細い体で、少し飛べるようになると、ピポの後を追って飛んだ。飛び方も上下に大きな曲線を描くようにして滑らかで巧みだ。運動神経のよさは、母親譲りのように見えるけど、ルミが白文鳥でないのは確かだ。いまだに体は黄金色のままだけど、頭と尾羽に変化が出てきた。
 その部分の黄金色が薄れ、白っぽくなっている。それに夫が気づいて、いう。
「ルミはクリームでも黄金文鳥でもない。チーと同じシナモン文鳥みたいだな。目も赤くてチーみたいだし」
 まもなく体もだんだん灰褐色になってきて、父親のチーに、よく似てきた。
 チーとピポは、相変わらずルミを放ったらかしにして、パピのように子煩悩ではない。それでもピポのほうは、ときどきルミのそばに行って、一緒に飛んだり歩いたりしている。それに比べて、チーは全く無関心で、父親のくせに、ルミに近づこうともしないから、やはり少し変わり者なのかもしれない。
 ルミは細い体で、ピポのような飛び方をし、高低自在に変化をつけて飛ぶことができるから、ピポは一緒に飛ぶと楽しそうだった。ルミの誕生で、体の大きいナナやココが苦手なピポにも、ちょうどよい遊び相手ができたようだ。
 そして、3月に入ると、ルミの動きはますます活発になり、ほかの文鳥たちはルミがそばに行くと逃げ回る。どうやら文鳥たちは幼い子とは争いたくないようだ。1羽でのびのびと育っているルミは、文鳥たちにというよりも、あやさんたちになついていて、よく手に乗ってくる。まだオスかメスかわからないけど、父親のチーをそのまま小ぶりにしたくらいよく似ている。それはともかく、性格はあまり父親に似て欲しくないというのがあやさんの本音だ。
 また8羽になった文鳥たちは、にぎやかに家の中を飛び回っていた。
 
 8羽の文鳥の生年月日などは、つぎのとおり。
(名前)
フー:白文鳥    2007年8月末生まれ  ♀ 
パピ:シナモン文鳥 2009年2月生まれ   ♂
            フーとパピが2010年2月に結婚
ピポ:白文鳥    2009年7月3日生まれ ♀
チー:シナモン文鳥 2009年8月生まれ   ♂
            ピポとチーが2010年7月に結婚
マイ:白文鳥    2010年5月3日生まれ ♂
        (パピとフーの第1子)
ナナ:桜文鳥    2010年6月17日生まれ ♀
        (パピとフーの第2子)
ココ:桜文鳥    2010年6月18日生まれ ♀
        (パピとフーの第3子)
ルミ:シナモン文鳥 2010年12月12日生まれ
        (チーとピポの第1子)

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