2015年10月30日金曜日

(二)「さよなら」そして「ようこそ」

 ナナが死んでしまってから、ココはナナを探して鳴いている。その点、フーを亡くしたパピは、フーが寿命で死んだとわかっているのか、寂しそうではあるものの、そのようなことはない。
ココがあまり鳴くので、独りになってしまったパピの鳥かごをココの隣に並べてみる。親子で寂しさを慰め合えたらいいと思ったのだ。そのためマイとルミがいる鳥かごはパピがいた場所に移動となる。
ところが、放鳥後、彼らが鳥かごに戻ろうとしても、スムーズにいかない。どうしても自分の元いた場所の鳥かごに入ろうとしてしまうから、ややこしくなった。同じ大きさのかごだから、置かれている位置で自分のかごを認識しているらしい。それが入って見るとちょっと違うと思うようなのだ。なかなかうまく自分のかごに入らないので、夫は面倒がって、元どおりに並べ替えた。
3日たっても、4日たってもココは鳴きながら、みんなの鳥かごの上に行き、ナナを探し回る。水浴びに水道の蛇口に飛んできて、ナナを呼ぶ。あやさんが、
「ココちゃん、ぉ水を飲みなさい」というと、手の中にたまっている水を飲むものの、水の中に入って浴びることはない。元々ココはナナと一緒でないと、水浴びができないのだ。一日違いで生まれた双子のような姉妹は、たいていナナがリーダーだったから、ココはしばらく戸惑いそうだ。
 フーが去って、間もなくナナが出血し、それが癌だとわかってから、あやさんたちはフーの死を悲しんでいるどころではなかった。ナナがどんなことになるのか不安な日々だった。それでもナナは心配をよそに精一杯生きた。ナナはフーの子だけあって、賢い子だった。亡骸はフーのそばに埋葬した。

 そんな2羽がいなくなったという喪失感もあって、なんとなく落ち着かない1週間がすぎてのことだった。いつものようにクリとチビのいる鳥かごの青菜を換えるとき、あやさんは、あれ? っと思った。かすかな鳴き声を聞いたような気がしたのだ。チビが卵のあるツボ巣に入っているけど、その声がチビから出ているようではない。少し前に苦しそうにしていたとき、手の中で温めたら卵を産んだチビだけど、その卵は棒のようなものだった。まだ卵管が細すぎるのだろうと思っていたから、卵を産んでもヒナがかえるとは考えにくかった。
でも、ヒナが生まれたのかもしれない。夫に、
「ヒナの鳴き声みたいなのが聞こえるけど」と話すと、
「だれのとこから?」ときくので、
「クリたちのツボ巣」と応えると、
「それなら、あり得るな」との返事。
 あとで夫が確かめると、なんと3羽もかえったらしい。
 翌日 夫がツボ巣をのぞいていった。
「また生まれたらしいぞ」
 これでヒナが4羽も生まれたことになり、あやさんはチビとクリで4羽のヒナを食べさせていけるか心配だ。チビは、さしえのとき育つかどうかも危ぶまれたほどだったから、まだ体も小さくて飛び方もおぼつかないことがある。一番心配なのは、生まれつき嘴が少し曲がっているので、ちゃんとヒナに食べさせられるかということだ。
 それでも、夫の話では、何とか食べさせているようなので、ひとまずホッとする。青菜はたくさん菜差しに入れてもすぐになくなるので、一日に3回も取り換える。えさの減り方も普通ではないから、ヒナが4羽ともなると親たちも大変だ。チビはまだ子どものような背丈のない体におぼつかない足取りで、鳥かごの中を忙しく動き回ってえさを食べているが、ヒナは元気に鳴いて騒々しい。親が必死になって食べさせているうちに静かになるものの、2時間もたたないうちに、また騒ぎ出す。クリも手伝っているとはいえ、チビの小さな体での4羽のえさやりは、かなり大変そうに見える

4日御の朝、夫がクリたちのツボ巣をのぞいていった。
「ヒナが1羽、死んじゃったみたいだな。チビがくわえている」
 元気のよい鳴き声とは別に小さな声も聞こえていたから、きっとその子が死んでしまったのだろう。親たちは必死で食べさせているけど、たくさんいると弱い子は充分に食べられないのかもしれない。可哀想だけど、いまの段階ではどうにもできない。

 さらに4日後、ヒナ3羽は順調に育っていて、鳴き声も大分大きくなった。チビはおぼつかない足取りで、えさを食べるのに必死だけど、ちゃんとヒナたちに食べさせているようだ。嘴も少し曲がっていたチビだけど、何とか母親の役目をはたしているらしい。小さいくせに気が強くて頭もよさそうだから、大丈夫だろう。父親のクリもときどきツボ巣に入ってえさやりをしているけど、ヒナたちはすぐにおなかが空くのか、静かに寝ている時間が短くなっている。ツボ巣を3羽のヒナが陣取っていて、親の入れるスペースがあるのかわからない。
 チビは子育てでヘトヘトになっているようだけど、夫はあと1週間しないとヒナをフゴに移さないらしい。あやさんは、チビの体力と、ヒナがツボ巣から落ちたりしないだろうかと心配だ。

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