2015年5月29日金曜日

(十一)ナナ、ココ、ミミ

 マイはますますピーに似てきた。ピーとフーは兄妹だったのではと考えるけど、白文鳥はみんなこんな感じなのかもしれない。威張っているところもよく似ているから、やはりオスの可能性が高い。
 少しして、マイの両足の指が内側に丸まっていることに夫が気づいた。綿棒などを足の裏に当てて広げる練習をしてみるけど、治るどころか、日に日に丸まっていく。このままでは止まり木がつかめないと思い、病院で診てもらうことにした。
 また鳥かごごと車に乗せて家を出る。マイは初めて家の外に出たのに、車中でもおとなしかった。
 医師によると、マイの足は生まれつきの変形で治せるものではないらしい。あやさんは予想していた結果なので、ホッとする面もあった。もし手術なんてことになったら可哀想だからだけれど、夫はマイのこれからを心配していた。
 これで、ピーを思わせるマイが、よその家に貰われて行くことはないはずで、マイはそんな星の下に生まれてきたのだと、あやさんは思う。つまり、マイの足の変形にはそんな意味もあるのかもしれないと。
 マイもみんなと同じように、鳥かご内のブランコに乗ろうとし、すぐに落ちているのを見ると忍びない思いもするけれど、パピだってブランコには乗らないのだから、あまり問題はないだろう。
 マイにとって、もう1つ具合が悪いのが、鳥かご内の水飲み容器でする水浴びだ。足の先が丸まっているため、プラスチックの容器では滑ってしまって、ほかの文鳥のようにカシャカシャと規則的な音がしない。音だけ聞いても、うまく浴びられないとわかる。
 そのためマイは、毎日あやさんの手のひらのプールで水浴びをするようになった。手の中なら両足を踏ん張っても滑らないから、羽をバシャバシャできる。あやさんが歌の途中で、ときどき、
「すごい、すごい、上手ね」などとほめると、得意になって浴び続け、水から出ても、またすぐに入る。
 そんなふうに、ほかの文鳥のようにはいかないこともあるけど、あまり問題なく、すこぶる元気で威張っている。
 5月末から6月初めにかけて(つまり、マイの子育てが終わってまもなく)、フーがまた卵を産んだ。こんどはツボ巣に7つもあり、またパピと交代で熱心に温めている。マイが無事に育ったので、要領がわかって自信がつぃてきたのか、落ち着いた様子だ。パピがときどき水飲み容器で水浴びをしているのは、今回は最初からしっかり湿度を保とうとしているのだろうか。
 それから10日ほどして、卵が1つ下に落ちていた。でも、こんどは7つもあるせいか、フーも気にしていない様子。
 そして、あの不気味な宇宙人の死骸を見ることもなく、1つの卵がかえった。6月17日のことで、翌18日にはツボ巣の中から微かな鳴き声が聞こえ、親鳥の出入りが盛んになった。
「そういえば、きのう、パピがツボ巣の中をのぞいて、盛んに鳴いていたけど」
 あやさんが思い出して夫にそういうと、
「そのとき、生まれたのかな。ハシウチっていう、ヒナが生まれるとき、中から殻を突っつく音がするんだ。それを聞いて、頑張れって励ましていたんじゃないか」と、解説があった。やはり17日にかえったらしい。それにしても、ヒナは生まれるときにも、固い殻を破る力が必要なのだ。
 そのあとで、ツボ巣をのぞいた夫が、奥のほうで小さいのが動いているといったから、ヒナはちゃんと生きている。
 19日には、大きさの違う2つの声がして、また生まれたようだ。きのうの昼ごろ夫がツボ巣を見たときには、5つ卵があったというから、そのあとで生まれたらしい。この調子で残りの4つの卵もかえったら、どうなるのだろうと心配していると、また宇宙人のような死骸が1つ、鳥かご内に落ちていた。少し見慣れたせいか、あまりはっきり見えないおかげか、前回ほどの不気味さはないけど、鳥が好きでない人が見たら、ギョッとして悲鳴を上げそうだ。
 それから2日後の21日になって3番目が生まれた。ちょうど夏至の日だ。ツボ巣は3羽のヒナでいっぱいなのに、まだあと2つ卵が残っている。すでに、かなり窮屈そうだから、ヒナたちが踏み潰されないかと心配だ。ときどき耳をすますと、ツボ巣からは、ちゃんとヒナたちの鳴き声が聞こえてくる。
 残りの2つの卵は、まもなくして下に落ちていたけど、3羽のヒナは順調に育っているようだ。卵はパピが、もうかえらないとわかって落としたのかもしれない。パピはツボ巣の中のフンなども下に落として、ヒナの居心地をよくしている。真面目に働くいい父親だ。
 いちどにたくさんの卵を産む文鳥でも、ヒナが3羽も生まれると、子育ては大変だ。もし7つともかえっていたら、親鳥はもちろん、家中が大混乱になったはず。本当に3羽でよかったと思う。
 3羽のヒナは、それぞれ6月17日、18日、21日が誕生日になった。名前は、「ナナ」、「ココ」、「ミミ」。
 ミミは遅く生まれたせいか、ナナやココに比べて、だいぶ小ぶりだけど、元気に動いているから心配なさそうだ。
 マイのときに比べ、予想どおり親鳥の大変さはかなりなものに見える。フーとパピが一生懸命に食べさせているけど、ひとたび1羽のヒナが鳴きはじめると、ほかの2羽も目を覚ますから、鳴き声はなかなかやまない。親鳥は休みなく次々にえさを与えなければならないから、合間に盛んにえさを食べている。野鳥のように、えさを探さないだけましとはいえ、子育てには休日がないから大変だ。
 パピは、ふだんより青菜をよく食べていて、菜差しにたくさん入れておいても、すぐになくなってしまう。それがヒナにやるのに、手っ取り早いえさだからなのか、それとも吐き戻しに便利なものなのかわからないけど、フーだけでなく、パピも年中ツボ巣に入って、献身的に食べさせている。
 そんなとき、まだ幼いマイがパピたちの鳥かごに入った。心配して見ていると、フーが3羽のヒナを守るようにツボ巣の入口に立ちはだかる。そして、以前あやさんにしたように首を振ってを威嚇し、マイを追い払う。
 ところがパピは、そんなマイに甘くて、庇うようにそばに引き寄せる。そして、鳥かご内のえさを自由に食べさせて、マイを静かにながめている。あやさんは、そんな呑気なパピにハラハラするけど、そんなとき、ヒナたちが鳴くようなことはなかった。パピには、ちゃんと、えさやりのタイミングがわかっているらしい。
 7月になると、夫が3羽のヒナを親から離してフゴに入れ、マイのときと同様に別の鳥かごに移した。
 さしえは、3羽ともなると片手に乗り切れなかったりするので、夫はまず大騒ぎをしているナナとココを手に乗せて食べさせる。ミミがあやさんの手の中で待っていると、夫の手に乗っていたフーが、そばにきて、ミミにも食べさせた。
 もう、親鳥の負担は軽くなるはずなのに、フーとパピは、やはり夫と一緒にヒナに食べさせたいようで、相変わらず吐き戻しをする。ヒナも、親から口移しでもらうほうがいいから、親鳥がそばで鳴くと、喜んで大口をあける。そうして、また、夫と親鳥の共同えさやりが始まった。
 そのうが膨らんだヒナたちが、おとなしくなり、フゴに1羽ずつ戻されるけど、気がつくと3羽が折り重なって寝ている。こうしていると暖かくて安心なのだろうけど、体の小さいミミが一番下になっているので、2羽の重みで潰されないかと心配になる。
 それでもそんなこともなく、みんな順調に育っている。3羽はしばらく同じ茶色の羽毛に覆われていたものの、ある日、夫がさしえをしながらいった。
「ミミは、どうも白文鳥のようだな」
 よく見ると下のほうから、マイのときのような白い羽毛がのぞいている。そこでミミは白文鳥らしいとなったけど、先に生まれたナナとココは、まだ全体が茶色のままで、白文鳥ではなさそうだ。
「ナナとココは、何文鳥かしら?」とたずねるあやさんに、夫は、
「さあ? もしこの茶色のままなら、先祖がえりかもしれないな」などと不思議なことをいう。そして、
「目は赤くてパピと同じだけど、シナモン文鳥ではなさそうだし」と続けた。
 たしかにナナとココは体も大きく、文鳥というより、何かほかの鳥のヒナを思わせる。2羽は双子みたいにそっくりで、飛べるようになるとパピを追っている。パピは自分の鳥かごにナナとココを入れて、マイのときのように、えさを自由に食べさせ、遠慮なく食べ散らかす2羽を、父親の眼差しで見ている。また、自分の止まっている場所を譲ったりもして、かなり甘い父親だ。フーのほうは黙っているけど、少し迷惑そうな感じだ。
 いつまでも夫の手に乗って、さしえを食べていたミミは、パピよりもフーのほうが安心できるのか、カーテンレールに止まって、フーのそばで、じっとしている。ナナやココも鳥かごから出ると、よく高いところに止まっているから、やはり鳥は高い場所にいると安心できるのだろうか。
 それでも、高いところから一気に下りるのは簡単ではないようで、ソファーやサイドボードまで下り、それから床に下りている。まだコントロールがつきにくいから、恐いのかもしれない。
 ピポの場合はそんなことはなかったけど、生まれつきの、おてんば娘に加え、フーの誘導のおかげもあったからだろう。

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