2015年12月17日木曜日

(九)ピポ、どこに?

 チビのことでホッとしたのもつかの間、あやさんちはまた大変なことになった。11月14日は朝から落ち着かない日だった。午後からハウスメーカーが点検にくるということもあったけど、テレビをつけるとパリの同時テロという衝撃的なニュースが流れていた。たくさんの死傷者が出たと伝えていて、重苦しい気分になり、文鳥たちの声にいやされる。
 予定通り家屋の点検は午後1時から始まり、男性4人が家の中に出入りしたため、文鳥たちの放鳥は3時過ぎになった。夫はそのあと4時を過ぎてから、あわただしく新調したメガネを取りに家を出て行った。
 そして、あやさんは自分の部屋のテレビでフィギュアスケートを見ていて、家を出た夫がまもなく傘を取りに戻ったのは知らなかった。多分このところの疲れで、テレビを見ながら居眠りをしていたのだろう。文鳥たちの騒ぐ声で気がついて、居間の電気をつけなければと思ったのは4地半頃だった。居間は真っ暗で、あわてて明るくしたけれど、いつものメンバーがまだ鳥かごに戻らずに騒いでいた。
 それから、6時頃に夫が帰ってきて、いつまでも遊んでいるマイやトビたちを鳥かごに戻し、ピポがいないという。あわてて名前を呼んで探しまわる。
 当然この夜は大変だった、どこかにピポがはさまったり落ちたりしていないかと家中を探す。運動神経のいいピポに限って、動けなくなっているとは、あまり考えられないけれど、1か月前には珍しく、カーテンを縫っていた糸がほづれ、それに足を引っかけて動けなくなっていた。それ以外は本当に手のかからない子で、足の爪も自分で短くしていて、1度も切ってやったことがない。とにかく家中をくまなく探しまわる。それでも発見できなかった。
 よく朝、もう死んでしまったかもしれないと思いながら、悲しい気持ちで、もういちど、洗濯機の下や机の下など徹底的に調べるけれど、やはりピポの姿はない。不思議だ。
 ピポが家の中にいないということは、外に出たとしか考えようがない。窓は閉まっているから、出たとしたら玄関だ。放鳥後に玄関が開いたのは、夫が出かけたときと帰ってきたとき、それに傘を取りに戻ってきたときの3回だけだけど、ピポが外に出たとすれば、戻ったときしか考えられない。ふだんは玄関になど絶対に行かないピポだけど、メグに追いかけられていた可能性もあるから、玄関の明りがついたので夫が帰ってきたかと思い飛んで行ってしまったのかもしれない。
 ところが夫はそのまま傘をとってドアを閉め、カサを広げて行ってしまった。そんなことが考えられた。
 15日の夕方には夫が警察に電話して遺失物で届いていないか問い合わせる。また、迷子チラシを作って家の外や団地の掲示板などに貼った。
 さらに夫は「迷子のペット」のネット掲示板にも書き込む。家の外にはえさを置いてピポの帰りを待ちわびるものの手がかりは無い。
 家の中では鳥かごに独り残されたチーが落ち着かない様子で、放鳥すると、ピポを探してくれとばかりにふたりの肩にとまったりして、最近になく付きまとう。以前は、よく巻き上げカーテンに潜っていたチーだけど、自力でその居心地のいい場所を取ることはできないらしい。こうなってみると、ピポがいかに頼りがいのある妻だったかがよくわかる。なんとかピポに戻って欲しいけれど、無事なのかもわからない。
 ピポの子どものトビやメグが、いつもは行かない玄関に行く。ピポがそこから外に出たことを知っているのだろうか。心配で重苦しい1週間が過ぎた。


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