2015年12月26日土曜日

(十一)チビの具合③

 12月1日の朝、チビがツボ巣から出てこない。のぞくと顔を動かしたものの、しばらくたっても出てこない。つぎの卵を産んでいるのかもしれないと思ったけれど、昨夜、寝る前にツボ巣から落ちていたと夫から訊いていたので気になった。きのうの昼間はいつもどおり元気に飛んでいたから、また卵を抱えて具合が悪いのかもしれない。ツボ須の中で動く様子がないので、あわててチビを手に取った。弱々しく力ない感じで、かなり具合が悪いようだ。水とえさをそばに用意して手の中で温めると、少し動くようになり、えさを3口ほど食べた。3つぶだったかもしれない。水は、嘴をぬらしてやっても、ほとんど飲まない。クリも心配そうにときどきそばにくる。そして、チビはいくぶん回復したように思えたが、少し首をふり、そのままあやさんの手の中で眠ってしまった。
「死んじゃわないかしら……」と心配しながら1時間ほどチビを抱いていた。予感は的中して、9時には全く動かなくなった。クリがきて、チビのしっぽを突っついたりしたものの、チビはもう反応しなかった。まだ全身があたたかいのに嘴が固く閉じている。明らかに死んだとわかった。1年9か月の短い一生だった。
 ピポがいなくなって半月になるけど、まだ見つからない。チビが死んでしまったので、いまあやさんちの文鳥は12羽になっている。ピポの夫のチーに加えチビの夫のクリまでが、さびしい日々をおくることになりそうだ。それにスーとミーもまだ独身だから、独り身のオスが4羽にもなってしまった。

翌日、チビの亡骸をフーたちと同じ場所に埋めた。クリはツボ巣の中で「クークー」いっていたらしいけど、そっと泣いていたのだろう。
 チビとクリは生まれたときからずっと一緒に暮らしてきた。あやさんちではなぜか桜文鳥はモテないから、もしチビがクリと離れたら、独身のままだっただろうと容易に想像できる。これまでメスで結婚できなかったのはナナ、ココ、ユウ、それにトビだけど、白文鳥のトビはモテルから子どもを持った(それがクリとチビ)。あとの3羽の桜文鳥はそれもなく独身のままだった。そう考えるとチビは、少し我儘でも格好のいいクリーム文鳥のクリと結婚できたから幸せだったかもしれない。そして3羽の立派なヒナを残したのは、すごいことだ。そのために命を縮めてしまったような気もするけど、それは仕方のないことだと思って、あやさんは心を鎮める。
 チビはあのひ弱な体でよく3羽のヒナを育て上げたと本当に関心する。そのため、かなり飛べなくなってしまった。みんなのようにカーテンレールの上にやっと上がれるようになっていたのに、子育て後に再びそこに上がることはなかった。チビは足も小さくて力がない。短い一生で可哀想だったけれど、頭のいいチビは精一杯に生きて、相次いだフーと七の死で悲しみの中にいたみんなに、新しい生命という希望をもたらしてくれた。
 この日、チーに珍しいことがあった。ピポが消えてしまってから、自分の守り神を失ったチーは、カーテンの場所取りもできずに、あやさんや夫にくっついている。チーはひ孫までいる長老の身なのに、ピポがいないとなさけない有様だけど、 最近はマイたちの水浴びのときにも、チーがあやさんの腕にくる。そしてマイに追い払われている。ところが、この日はチーがひとりで先に飛んできてあやさんの腕に下りた。チーはこれまでもこうして蛇口の水を飲んだことがあるものの、手のひらのプールに入ったことはない。水浴びは大好きなのに、水のたまった手に乗るのは恐いのだろう。それが、
「チーちゃん、ぉ水の中でバサバサッてしてごらん」と、いったら、初めて手のひらのプールに入って水浴びをした。ピポがいなくなって、チーの中で何か変かが起きているようだ。
 ピポはまだみつからない。どこかに保護されていてほしい。

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