2015年12月21日月曜日

(十)チビとピポ

 11月22日の朝、またチビが鳥かごの下に落ちたまま、じっとしていた。手の中で温めるものの、食欲もなく水も飲まない。また卵かフンが詰まっているのかもしれない。温めてツボ巣に戻すと、すぐにまた下に落ちてじっとしている。そんなことを3回くり返したので、夫が起きてきてから療養用の鳥かごに移した。そのほうがクリと離れて静かに養生できそうだ。
 チビは1晩、療養用の鳥かごで過ごし、翌朝には元気になって、クリのところに戻りたがった。元の鳥かごに入れてやると、高い位置のえさ入れに上がってえさを食べたから、あまり心配はないようだ。
 そして、次の日の朝、鳥かごの下にチビの卵が落ちていた。拾ってツボ巣に入れてやったら、クリと喜んで温めだした。けれども翌日にはその卵は再び下に落ちていたからダメだったのかもしれない。それでも、これで、今回は卵詰まりの心配が薄れたと思い、あやさんはホッとする。

 一方、ピポはまだ見つからない。範囲を広げて貼紙をするけれど、なんの音沙汰もない。ピポはもう6歳4か月を過ぎているから、人間でいえば60代の後半で70近い年齢だろう。ひ孫までいる大ばあちゃんで、これから余生を送ろうという時期に差し掛かっている。ピーが2年足らずで死んでしまったあと、同じ白文鳥のピポがこの家にやってきて、どれほどフーやあやさんたちを慰めてくれたことか。そのフーが2月に亡くなってしまい、ピポがこの家で1番の古参になった。フーのように怪我をすることもなくずっと元気に暮らしてきて、まだまだこれから何年も一緒に過ごせると思っていた。そのピポがいなくなってしまったなんて、なかなか受け入れられない。
 ピポは遊びを考え出すほどの頭のよさといまだにソファーから巻き上げカーテンに垂直に飛び上って行く運動神経を持ち合わせ、シナモン文鳥のチーとの間にルミ、ユウ、トビ、メグの4羽の子どもをもうけた。それもヒナをかえすのは1年に1度のことで、トビとユウは一緒に生まれたが、ルミとメグは1羽ずつだった。そのトビとメグの子が生まれ、それがクリとチビで、そこからこの春にスー、ミー、ランが生まれ育った。つまりチビはピポの孫にあたる。
 けれども、丈夫なピポに比べチビはヒナのときから小さかった。口のわきのパッキンがおかしく大口をあけて食べられなかった。育たないかもしれないと思いながらも、親鳥がここまで育てたのだからと無理やり口の中にえさを入れて食べさせた。そして小さいながらも一人前になって、1度に4羽ものヒナをかえした。そのうち1羽はかえってまもなく死んでしまったけれど、とにかくチビはあやさんがハラハラするほど頼りない体で、3羽ものヒナを育て上げた。
 どう見てもピポのほうが要領よく生きてこられた。だから、その調子でだれかに拾われて可愛がられていることを願うばかりだ。ピポなら、家を出てしまってからも何とかできたかもしれないと淡い期待を持つしかないだろう。
 ピポは鬼ごっこが好きで、よくマイやメグに追いかけられていた。あの元気はとてもおばあさんとは思えない。そうは考えてみるものの、あやさんはカラスの鳴き声を聞くたびに身が凍る。みんながピポの帰りを待っている。

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